ニューポロは、100%ワルター・デ・シルヴァ作品
数年前から2009年の経済状況はこうなると予想していたわけではないだろうが、いまこの時期に新たな価値を持つコンパクトカーであるニューポロを投入してくるとは、さすがフォルクスワーゲンと言わざるを得ない。時代の大きな流れを読む確かな眼があれば、たとえ経済状況のうねりがあったとしても、競争力がある商品を生み続けることができるのだろう。
いきなり結論を出してしまったが、5代目となるこの新しいポロの出来映えは素晴らしく、ヒット作となることは間違いないと思う。2日間にわたりイタリアのサルディニア島で試乗する機会を得たが、そう確信するに至った理由を説明していきたいと思う。
まずスタイリングだが、これまでと180度方向転換を図り、かなりスポーティになった。従来モデル、とくにかわいらしさを狙ったと思われる丸目の前期型は日本では若い層に受けた。しかし、欧州では50歳前後の中年女性には受け入れられたが、若い層にはあまり評判がよくなかったそうだ。
ポロというクルマのポジショニングを明確にして量販を図るためには、やはり若い層にアピールしなくてはならない。そのためには、まずスタイリングをスポーティにする必要があったのだ。そうした命題に解決の道筋をつけたのが、アルファロメオ、アウディのチーフデザイナーを務めた後、現在、フォルクスワーゲングループのデザイン部門を統括するワルター・デ・シルヴァだ。
これまでのワッペングリルを特徴としたフォルクスワーゲン車のスタイリングは現在、デ・シルヴァの下で順次イメージチェンジが図られているが、関係者の話によると「ゴルフⅥが80%のデ・シルヴァ作品だとすると、ニューポロは100%デ・シルヴァ作品」だそうだ。参考までに「シロッコはゴルフをやった後に、顔だけデ・シルヴァが手を入れた」とのこと。
さて、デ・シルヴァの考え方はこうだ。「サンプリシタ(英語のシンプリティにあたるイタリア語)こそカーデザイナーの信条であるべきだ」という。また「時間が経つと流行遅れになってしまうような小細工は排除する。長い目で見れば、簡潔さこそが豊かさである」とも主張する。
具体的には、全長(+54mm)と全幅(+32mm)を従来モデルより拡大する一方、全高は13mm下げている。これでダイナミックでスポーティなフォルムとして、さらにシロッコ以来、新たなフォルクスワーゲンのアイデンティティとなっているフラットなグリルと切れ上がったヘッドライトからなる「顔」が与えられている。
それにしてもゴルフとよく似ていると思われるだろう。それは事実として受け止めるしかないが、ではこの先、フォルクスワーゲン車は、すべてこの方向へ行くのだろうか。答えは「イエス」だ。それはアウディを見ればよくわかる。デ・シルヴァが統括して完成させた現在のアウディラインナップと同レベルで、フォルクスワーゲン車も似た顔つきになることは間違いない。この経済危機の中でも好調な販売を維持しているアウディの手法を取り入れない理由を探す方が難しいだろう。