V8エンジンが放つ咆哮はスーパーカーの迫力
イグニッションキーを回してエンジンを始動させても、その印象は大きくは変わらない。さすがにそのトルクゆえ、発進時に乱暴なアクセルワークをするとすぐホイールスピンを起こしてしまうが、普通に、意識せずに運転するのであればエンジンが奏でる音もあくまで紳士的だ。
クアトロポルテSは電子制御でダンパーの減衰力を変化させるスカイフックサスペンションを採用するが、このスポーツGT Sは通常モデルよりも前10%、後30%固められたシングルレートのダンパーを用いる。
さらに前245/35、後295/30の扁平20インチタイヤを履くため、首都高の路面段差を通過するような場合には、さすがにスカイフックサスのようなフラット感はなく、足の硬さを伝えてくるが、ロングホイールベースのおかげで収束はすっきりとしており、不快な余韻を残すことはない。ラグジュアリーモデルとして後席に座るような使い方をしてもまず不満の出ないレベルだろう。
燃費は欧州総合値で6.4km/Lとそれなりだが、6速100km/hの回転数は1800rpmとハイギアードなため、実はかなりの数値が期待できる。今回の取材では高速走行だけならリッターあたり9.0kmを記録した。
と、ここまでスポーツGT Sの「羊」の部分を述べてきたが、その穏やかな性格はボタン操作ひとつで一変する。
SPORTボタンを押せば「スーパーカー」に早変わり
センターコンソール上、ナビモニター左にあるSPORTボタンを押す。すると通常モードの際には閉じられていた排気システム内のフラップが開かれ、V8エンジン特有のヌケの良い乾いたエキゾーストノートを高らかに響かせる。これはスーパーカーが放つ咆哮だ。
同時にアクセルペダルの操作に対するレスポンスも向上し、クルマの動きが軽やかになる感覚が生まれてくる。そしてそれに呼応するように鼓動も高まる。
トランスミッションはトルコン式6速ATだが、シフトチェンジは素早くダイレクトに伝達する。Dレンジのままでもパドルシフトでの操作は可能だが、シフトノブを左に倒すとマニュアルモードになり、8000rpmのリミットまで淀みなく回転が上がっていく。シフトアップのタイミングは左右メーター間のインジケータが教えてくれる。
コーナー手前でブレーキング、そして左手パドルでシフトダウン。自動でブリッピングまで行い、ボディは適度にロールしながら身軽にクリアしていく。標準採用のピレリPゼロの粘りのあるグリップ感もスポーツGT Sの特性とよく合っている。全長が5mを超すクルマには思えないくらい、ドライバーの意志がクルマの隅々にまで届いていく感じを覚える。
ラグジュアリーとハイパースポーツ。相反する性格を高次元で同居させたクアトロポルテ スポーツGT S。性格の異なる2台を所有し、ボタンで切り替えられるという印象だ。そう考えると、案外お得なモデルと言い換えることができるのかもしれない。(文:Motor Magazine編集部/写真:永元秀和)
マセラティ クアトロポルテ スポーツGT S 主要諸元
●全長×全幅×全高:5110×1895×1420mm
●ホイールベース:3065mm
●車両重量:2050kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4691cc
●最高出力:323kW(440ps)/7000rpm
●最大トルク:490Nm/4750rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●タイヤサイズ:前245/35ZR20、後295/30ZR20
●0→100km/h加速:5.1秒
●最高速:285km/h●車両価格:1695万円