ますます重要性を増すCクラスという存在価値
日本では、フォルクスワーゲン ゴルフとともに「最もポピュラーな輸入車のひとつ」と紹介できるメルセデス・ベンツ Cクラス。そのルーツである190シリーズの日本正式導入が1985年に開始されてから、ブランド初となるFFレイアウトを採用したAクラスが導入される1998年までの長きにわたり、サイズ的にも価格的にもエントリーモデルとしての立場を担ったCクラス。
それは、かつて「高嶺の花」だったメルセデス・ベンツを多くの人に「もしかしたら手が届くかも・・」と感じさせる身近な存在へと一気に引き寄せた、何ともエポックメイキングな立役者だったと言っても良い。
現在では、Aクラスやその派生モデルとしてスタートしたBクラス、SUVバージョンのGLAやGLBなどいわゆる「コンパクトメルセデス」と総称される多彩なモデルがラインナップされ、Cクラスをエントリーモデルと受け取る人は以前よりも少なくなった。
しかし、折しもこれからのメルセデス・ベンツはさらなる収益性アップのためにブランド全体のラインナップを見直し、高価格帯モデルの充実に力を入れて低価格帯のモデルからは撤退する方向にある、といった見方もされるようになっている。現在でも紛れなきコアモデルであるCクラスシリーズの重要性はこの先、今までにも増して高まる可能性もありそうだ。
分類上、ファミリーの一員としてクーペやカブリオレが位置付けられたりもするものの、いつの時代もCクラスのベンチマーク的な存在は、4ドアセダンとステーションワゴンという2タイプのボディが担う。そのステーションワゴンをベースに年の秋に姿を現したのが、現行型で第三のボディとなる「オールテレイン」だ。
欧州ではステーションワゴンに設定される4マティックを謳う4WDバージョンが日本では用意されず、やはり欧州には設定があるガソリンエンジン搭載のオールテレインが用意されないこともあり、セダン/ステーションワゴンとオールテレインの日本での価格には明確な差が設けられている。
たとえば、同じ2L直4ディーゼルターボエンジン+マイルドハイブリッドシステム+9速ATというパワートレーンを持つステーションワゴンとの価格差は90万円以上。4WDは不要で、ベーシックなステーションワゴンとしての機能性を備えていれば事足りる、という価値観のユーザーには、そのエクストラコスト分は「無用な出費」と捉えられても仕方がない。
さらにオールテレインが、ステーションワゴン本来の設計に対して「無理やり車高を上げて」さらにSUV風味の演出を意識した「ファッション性重視のタイヤ&ホイール」を履かされたという捉え方をすれば、なるほどベースとなったステーションワゴンの方がバランスに長けて洗練された走りのテイストが味わえると、そう解釈できる印象が皆無ではなかったことも記しておく必要はあろう。
上質でこなれている好印象。ベストなステーションワゴン
今回、オールテレインとともに連れ出したC220dステーションワゴン アバンギャルドには「AMGライン」というパッケージオプションが装着されていた。その走りのテイストに影響を及ぼす可能性が考えられる装備では、標準仕様では前後とも225/50サイズの17インチタイヤ&ホイールに換えて、フロントが225/45、リアは245/40サイズとなる18インチタイヤ&ホイール、スポーツサスペンションが含まれる。
そのようなセッティングが施されたこのステーションワゴンの走りのテイストは、率直に言って実はオールテレインはもちろんのこと、前述したような走りに関連する一切のオプションアイテムを装備していないセダンのC220dアバンギャルドに対しても、より上質でこなれた印象を提供してくれるものだと感じられたのだ。
時にタイヤ&ホイールまわりの重さを意識させられるオールテレインに比べれば、ばね下の動きが全般により軽快と受け取れるシーンがあったし、わずかな差ではあるもののセダンに対しても、サスペンションのストローク感がよりスムーズ、という感触を受ける場面も存在した。
半導体不足に代表される昨今のご時勢ゆえ、現在では「注文いただくことができません」とアナウンスされる現行Cクラスデビュー時の大きなトピックでもあったリアアクスルステアリング(4WS)の有無も含め、装着オプションの違いなどから見極めが難しかった現行Cクラス各バリエーションの乗り味の中で、個人的に「これこそがベスト!」と実感できたのが、今回のステーションワゴンであった。
単独で乗る分には不満を覚えることのなかったオールテレインの動力性能だが、このステーションワゴンはオールテレインに勝るとも劣らずと実感。同じパノラミックスライディングルーフをオプション装着するも、なおという差が残る重量の違いが微妙に影響を及ぼしていたと考えれば納得できる部分で、フットワークのテイストも含めてより身軽でひと皮むけた走りの印象を享受できた。
近年、流行の主軸がSUVに移ったとはいえ、長きにわたりラインナップされ続けているだけのことはあると改めて納得させられた次第。ユーティリティ性の高さはもちろん、こうしてバランス感覚に長けた走りのテイストも実現されていることが、あえてベーシックなステーションワゴンを選ばせる原動力になっていると、そう感じさせられることにもなった。