かつて光り輝いていたマセラティ。その輝きを取り戻すにはまず、自分たちのブランドを理解することから始めたと言う。そして向かう先はこれから誕生するBEVの「フォルゴーレ」。その未来に向けて、確実に歩みを進め始めているようだ。(Motor Magazine 2022年8月号より)
数年前とは大違いのマセラティの変身
「マセラティが変わりつつある」
MC20とグレカーレに試乗したいま、私はそう確信している。どちらも強固なボディ構造をベースとして、マセラティのエンジニアたちが理想とする足まわりがついに実現できたように思う。パワートレーンにも最新のテクノロジーが盛り込まれた結果、グランドツアラーに相応しいパフォーマンスとともに優れた燃費効率も手に入れた。
内外装のクオリティ感は見違えるばかりで、インフォテインメントやADAS系も充実している。どの領域にも弱点が見当たらない、現代のラグジュアリーカーとして一線級の商品力を備えたマセラティがようやく誕生したといえるだろう。
もっとも、つい数年前までのマセラティは、ここまでのレベルに達していなかった。基本となるボディ剛性が十分でなく、このためハンドリングと乗り心地のいずれかに妥協を強いられていた。ボディ設計の古さは静粛性や制振性の面でも弱点となっていた。
パワートレーンに関していえば、フェラーリが手がけるV8エンジンはたしかにエキゾーストノートが魅力的だったが、それも含めて1台のクルマとしての煮詰めという部分では熟成不足も否定できなかった。
一方で内外装のデザインには、クラシカルなエレガンスが漂っていたものの、そのクオリティ感は本物を知る富裕層にとって物足りないものだったことだろう。