BEVの充実化を進める一方で、強力なエンジンを搭載したスポーツモデルも多く用意するアウディ。そこで気なるのがアウディが本命とするのはBEVか、ハイパーフォーマンスカーなのか、ということだ。それを探るべく相反するように見える2台のアウディとともに真相を探るべく旅に出た。(Motor Magazine2022年8月号より)

変に尖ったところがなく常に安心かつ快適な走り

一方でeトロンの印象は、RS 7の正反対と言っていい。V8エンジンが奏でる勇ましいサウンドはなく、アクセルペダルを踏み込めばスーッと流れるように走り出す。そのとき車内を満たしている静けさには、ドライバーを沈静させる効果があるように思う。エンジン回転数が高まるたびに、シフトアップを繰り返すたびに強烈な刺激が味わえるRS7とはまったくの別世界だ。

乗り心地は快適そのもので、タイヤにどんなショックが加わっても、それを優しく受け止めてくれる。その一方で、ほどよいフラット感を味わえるのも嬉しいところ。こうした、本質的に相反する要件を高い次元で両立できているのは、eトロンが重心高の低いBEVであることも関係しているはず。

画像: eトロン スポーツバック ファーストエディション。全高は1615mm、最低地上高は190mmというSUVらしディメンジョンと、クーペらしい美しいルーフラインを併せ持っているのが特徴である。

eトロン スポーツバック ファーストエディション。全高は1615mm、最低地上高は190mmというSUVらしディメンジョンと、クーペらしい美しいルーフラインを併せ持っているのが特徴である。

というのも、重心が低いクルマは基本的にローリングやピッチングを起こしにくいので、ソフトな足まわりでもボディをフラットな姿勢に保ちやすいから。つまり、BEVは乗り心地とハンドリングの両立にも有利なのだ。

同じ理由により、コーナリング時に不安定な姿勢に陥らないのもeトロンの魅力。2.5トンの車重ゆえ、機敏なハンドリングは期待できないが、コーナリングを積極的に楽しんでも安心していられるのは嬉しいポイントといえる。

最高出力408psのモーターが生み出す加速感は独特だ。回転数の上昇につれてトルクが急速に立ち上がる内燃エンジンに対して、モーターは回転数ゼロからの起動時に最大トルクに達するのはよく知られているところ。

それゆえに加速Gは発進時が最大となるのだが、内燃エンジンとモーターの違いはそれだけにとどまらない。私には、エンジンのほうが加速感が硬質に感じられるのだ。これに比べると、モーターが生み出す加速感はどこかヌメッとしていて、トゲトゲしている感じがしない。これは電車が加速する様を思い起こしていただければ、ご理解いただけることだろう。

eトロンの室内スペースは後席を含めて実に広々としている。ラゲッジスペースは616L(5名乗車時)で、今回の比較対象のRS 7さえ凌ぐ大容量だ。しかも、eトロンは前後にモーターを積むフルタイム4WD、つまりクワトロで、そのトルク配分は前後各々のモーターを綿密に制御してコントロールするため、従来のメカニカル式4WD以上に俊敏かつ正確だという。

以前、デビュー前のeトロンプロトタイプをナミビアの砂漠でドライブしたとき、ドリフト時のコントロール性が従来のクワトロ以上のレベルにあることを知って大いに驚いたことを、私はいまも克明に記憶している。

モーターとエンジンの違いはあるが同じ精神を受け継ぐ

スーパースポーツカー並みのハイパフォーマンスクーペとSUVベースのBEVで乗り味が大きく異なるのは当然のことだ。それでもeトロンとRS 7の間には、走りがいいのに快適性が高く、実用性や万能性に優れているという共通項が散見される。これらはアウディの多くのモデルに共通する価値といっていいものだ。

画像: 正反対の存在に見える2台だが、根底に息づく精神は同じ。(写真左:RS 7スポーツバック/右:eトロン スポーツバック ファーストエディション)

正反対の存在に見える2台だが、根底に息づく精神は同じ。(写真左:RS 7スポーツバック/右:eトロン スポーツバック ファーストエディション)

フォルシュプラング2030という名の電動化計画を推進中のアウディは、2026年以降に発表するニューモデルをすべてフル電動化モデルとし、エンジン車の生産を2033年までに終了すると宣言している。環境問題に熱心なアウディにしてみれば当然の選択かもしれないが、「BEVの一本足打法」が持続的な地球環境の改善に本当に役立つか否かについては、今も世界中でさまざまな議論が交わされているところだ。

これはこれで重要な問題だが、ひとりのエンスージャストという立場に立ち返っても、内燃エンジンを積んだ自動車が完全にこの世から消え去ってしまうことには一抹の寂しさを覚える。そして、私と同じ思いを抱くエンジニアやマネージャーがアウディの社内にいたとしても不思議ではなかろう。

いずれにせよ、RS 7のエンジンパワーを存分に解き放ったときの血湧き胸躍る感動を、いまも私の身体が明瞭に記憶していることだけは疑いのない事実である。(文:大谷達也/写真:永元秀和)

■アウディ RS 7 スポーツバック 主要諸元

●全長×全幅×全高:5010×1960×1415mm
●ホイールベース:2625mm
●車両重量:2170kg
●エンジン:V6DOHCツインターボ+モーター
●総排気量:3996cc
●最高出力:441kW(600ps)/6000-6250rpm
●最大トルク:800Nm/2050-4500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・73L
●WLTCモード燃費:7.6km/L
●タイヤサイズ:275/35R21*
●車両価格(税込):1872万円
*試乗車はオプションの285/30R22

■アウディ eトロン スポーツバック 55 クワトロ ファーストエディション 主要諸元

●全長×全幅×全高:4900×1935×1615mm
●ホイールベース:2930mm
●車両重量:2560kg
●モーター:三相非同期モーター2基
●モーター最高出力:300kW(407ps)
●モーター最大トルク:664Nm
●バッテリー総電力量:95kWh
●WLTCモード航続距離:405km
●駆動方式:4WD
●タイヤサイズ:265/45R21
●車両価格(税込):1346万円

アウディ最新動向:待望のRS 3が登場。Q4 eトロンの日本上陸も迫る

画像: RS 3 セダン。

RS 3 セダン。

サーキット走行もこなすコンパクトスポーツに、新作BEVはRWD。どちらも走りへの期待大

RS 3 スポーツバック/セダンは直5ターボエンジンを搭載。最高出力400ps、最大トルク500Nmと非常にパワフルなモデルだ。日本での販売価格はスポーツバックが799万円、セダンは818万円。さらにアウディでは第3弾のBEVのQ4 eトロンも日本で発表された。全グレード1モーター(最高出力150kW、最大トルク310Nm)の後輪駆動で、一充電走行距離は516km(欧州値)を確保。デリバリー開始は2022年秋以降の予定だ。

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