クーペからの「派生」を感じさせない手の込んだ造り込み
ミッドシップスーパースポーツモデルをクーペからコンバーチブルにコンバートするだけならば、ボディから切り離したルーフに電動もしくは油圧式の開閉機構を装着して完成! というケースだって、なきにしもあらずだろう。
だが、マセラティMC20のコンバーチブル版モデル「チェロ」にはそれとは別次元の、相当に手が込んだモディファイが施された。
そもそもMC20のカーボンモノコックは、一般的なモールド製法ではなくプリプレグ式。しかもクーペ版ではルーフ部分も応力を負担している。その不足分を補うためにチェロでは、カーボンファイバーを積層する向きなどを工夫して、コンバーチブルだからといって妥協のない高剛性を実現した。
エクステリアデザインそのものも、微妙に異なっている。クーペではほぼ直立していたCピラーをチェロで前傾気味に改めたのは、ルーフを開けた状態でも、AピラーからCピラーまでが流れる曲線でつながっているように見せるのが目的だ。
このアレンジを無理なく実現するため、前側のルーフを切り取るポイントにこだわった。フロントウインドウで立ち上がった曲線が、水平近くまで折れ曲がっていく部分が選ばれたという。
さらに、リアフェンダーの肩にあたる部分はクーペより3〜4cmほど高くされたが、これはヘッドレストから後方に伸びるフェアリング部分とのつながりをよくするためだ。加えて、フェアリン
グ部分に見える3つの窪みは、通常ならフロントフェンダーに設けられるエアアウトレットを移設し
たもので、MC20チェロがミッドシップであることを示している。
荒れた路面でも乗り心地良し。深い安心感で満たしてくれる
MC20チェロの国際試乗会は、イタリアのシシリー島で開催された。かつてこの島で行われていた「タルガフローリオ」というレースで、マセラティは1937年から40年まで歴史的な4連覇を成し遂げている。
また、美しいワインディングロードからひどく舗装が荒れた路面まで、さまざまな環境でMC20チェロを堪能して欲しいとの思いから、開催地に選ばれたそうだ。こうした彼らの狙いは、見事に達成されたといっていい。
何よりも驚かされたのは、荒れた路面でも乗り心地が良好なことであり、そしてボディが底付きしにくいことだった。MC20チェロのサスペンションストロークは、スーパースポーツカーとしては異例に長く、これが極めて快適な乗り心地をもたらしていることは承知していたが、シシリー島の悪路では、その実力を改めて思い知らされた。
とにかく、深めのヘコみを車輪が通過したり大きな段差を乗り越えたりしても、直接的なショックを感じることは皆無で、滑らかな乗り心地に終始した。また、ときにはフロントの車高を上げるリフトアップも使用したが、大抵の場合は、これを使わなくてもアゴを摺ることはなかった。その意味でも、実用性は極めて高いといえる。