最近、本格的なスポーツ性能を持つCセグメントカーが増えつつある。ここでは各国の代表選手的存在であるドイツ:アウディRS3セダン、フランス:ルノー・メガーヌR.S.、そして日本発:ホンダ シビック タイプRの、「速さ」を追求した3台をテスト。それぞれのモデルが目指した走りや方向性の違いを読み解いていく。(Motor Magazine 2023年1月号より)

リアタイヤよりもフロントタイヤのほうが太い、という謎モデル

藪から棒で恐縮だが、アウディRS3 セダン(以下、RS3)に標準装備されるタイヤサイズは、フロントが265/30R19で、リアが245/35R19である。「それ、フロントとリアが逆でしょ?」と思われるかもしれないが、これは私の勘違いでもなければミスタイプでもない。事実、試乗車にはこのサイズのピレリPゼロが装着されていた。

画像: RS3セダン。後方から見るとフロントフェンダーのスリットが見える。また前輪のほうが後輪よりも外に張り出している。

RS3セダン。後方から見るとフロントフェンダーのスリットが見える。また前輪のほうが後輪よりも外に張り出している。

なぜ、RS3はフロントタイヤのほうがリアタイヤよりも幅広なのか。その理由が前後の重量配分にあると睨んだ私は、これを車検証で確認してみたのだが、案の定、59対41でフロントヘビーだった。

もっとも、前輪駆動モデルであれば、この程度の重量配分は決して珍しくない。事実、今回比較対象として取り上げたルノーメガーヌR.S.トロフィー(以下、メガーヌR.S.)は62対38でRS3よりもフロントヘビーだが、それでもタイヤサイズは245/35R19で前後同一。

タイヤサイズを前後で共通にすればローテーションが可能になるなど、メリットは多い。そうしたデメリットに目をつぶってまでフロントにワイドなタイヤを装着した理由は、どこにあったのか?

これはあくまでも私の推測だが、RS3に採用された新しいクワトロシステムにその秘密は隠されているように思う。左右のリアタイヤに分配するトルクを電子制御できるRSトルクスプリッターを搭載したRS3だが、前後アクスルに向けて伸びるプロペラシャフトは直結。つまり、前車軸には最低でも50%のトルクが常に配分されることになる。

それでもリア左右輪のトルク配分を変化させればヨーモーメントを制御できるのは間違いないが、前後トルク配分をリアバイアスにできなければ本格的なドリフトの姿勢を作り出すのは難しい。そこでリアタイヤのグリップレベルを意図的に落としてハンドリング特性の制御幅を広げようとしたのではないか? 私は、そんな風に推測している。

圧倒的なパワーとクワトロのスタビリティの高さに惚れる

もっとも、ワインディングロードでRS3が示したハンドリングはバランスが良好で、文句の付けどころがなかった。ひとつ前のRS3の「詳解パート」でもお知らせしたとおり、ドライビングモードをコンフォート、オート、ダイナミックと切り替えていくたびにアンダーステア傾向が弱まり、クルマが明確な意思を持ってコーナーのイン側を目指していこうとするのだ。

画像: アウディRSセダン。今回の3台でもっともパワフルなRS3は、クワトロとRSトルクスプリッターといった先進機能により常に意のままの走りを見せた。

アウディRSセダン。今回の3台でもっともパワフルなRS3は、クワトロとRSトルクスプリッターといった先進機能により常に意のままの走りを見せた。

しかも、ダイナミックモードでもオーバーステアに転じることはなく、リアタイヤがあくまでもグリップし続けるスタビリティの高さは、アウディのスポーツモデルに相応しいものだった。

その際のバランスが良好なことは、スタビリティコントロールの動作状態にも表れていた。コンフォートモードで積極的にコーナリングを楽しもうとすると、ときおりピカピカと点滅していたスタビリティコントロールの警告灯が、オートモードではその頻度がガクンと減り、ダイナミックモードではほぼ点滅しなくなったのだ。これはなによりも、前後のタイヤがバランスよくグリップしている状態と捉えることができる。

しなやかな足まわりが、荒れた路面でも執拗にグリップし続けるロードホールディング性の良さも
アウディらしい美点。ロールの姿勢も落ち着いていて、一度ハンドルを切れば、一定舵角を保ったままコーナーをクリアできるスタビリティの高さは何度味わっても惚れ惚れとする。

2.5L直列5気筒ターボエンジンが生み出すパワー感も圧巻。最高出力はライバル2台を70〜100ps引き離す400ps、最大トルクはこちらも80〜100Nmリードする500Nmなのだから当然だろう。パワーウエイトレシオでも、140〜170kg重い車重を跳ね返して3台中トップの4.0kg/psをマークする。したがって箱根のどんな急坂も余裕をもって登り続ける力強さを発揮。

フラットなトルク特性、良好なレスポンスについても不満を抱かなかった。ただし、車両価格がここに登場したライバルより300万円以上もしくは近く高い839万円なのだから、それも当然かもしれない。

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