最近、本格的なスポーツ性能を持つCセグメントカーが増えつつある。ここでは各国の代表選手的存在であるドイツ:アウディRS3セダン、フランス:ルノー・メガーヌR.S.、そして日本発:ホンダ シビック タイプRの、「速さ」を追求した3台をテスト。それぞれのモデルが目指した走りや方向性の違いを読み解いていく。(Motor Magazine 2023年1月号より)

「エンジンのホンダ」だと再認識させる官能性能

絶対的なパワー感では太刀打ちできなくても、エンジンの官能性でRS3を打ち破ってみせたのがシビック タイプRだった。

画像: ホンダ シビック タイプR。アクセルペダルを踏み込んだときの反応、シフト操作時の感触など、すべてのフィーリングに節度があり、操る楽しみを堪能できる。

ホンダ シビック タイプR。アクセルペダルを踏み込んだときの反応、シフト操作時の感触など、すべてのフィーリングに節度があり、操る楽しみを堪能できる。

2Lの排気量から330psを絞り出すこの直4ターボエンジンが、どうしてここまで官能的なのか、私にはうまく説明できる自信がない。それでも、エンジンの吹け上がりがシャープで、7000rpmのレブリミットまで軽々と吹け上がるのは間違いのないところ。その回転フィールに、ターボエンジン特有の重さが感じられない点に、官能性の秘密が隠されているのかもしれない。

エキゾーストサウンドも絶品で、音量は小さめながら軽く抜けのいい音色はターボエンジンであることが信じられないほど。その雑味感のない澄んだ音色はとりわけ美しく、エンジン回転数の上昇に伴ってドライバーの鼓動まで速まっていくように感じられる。

しかも、ゲートが正確で流れるようにシフトが決まるフィーリングがまた絶妙で、無駄にギアチェンジを繰り返したくなる。これほどストロークが短く、しかも「吸い込まれる」感覚が見事な前輪駆動モデルが、ほかにあっただろうか?

新型シビック タイプRはシャシも絶品で、絶対的なコーナリングパフォーマンスとともに「最後までコントロールが効く懐の深さ」が魅力だが、今回、初めて公道を走らせてみて、とある弱点に気づいてしまった。

一定の周期でボディが上下する路面の波打ちと車速の組み合わせになると、足まわりが共振を起こすのか、激しい上下動に見舞われることがあるのだ。この傾向はスポーツモードよりも+Rモードの
ほうが顕著だが、一度これが起きると激しい振動のせいで視界さえままならなくなるほど。

もっとも、この状態でもロードホールディング性はいささかも損なわれないので危険とはいえないが、ドライバーのやる気が削がれてしまうのは事実。この点は要改善ポイントとして指摘しておきたい。

ちなみに、ニュルブルクリンクのタイムアタックでは+Rモードではなくスポーツモードを用いたそうだ。

メガーヌはマイルドな乗り味ハンドリングは少し気になる

残るメガーヌR.S.は私にとって大好物の1台。乗り心地とロードホールディング性を両立させながら、「操る喜び」も実現したシャシ性能にはデビュー当時から心底惚れ込んでいたが、今回、最新の
ライバル2台と比較して、その印象がガラリと変わってしまった。

画像: ルノー メガーヌR.S.トロフィー。「トロフィー」と名乗っているのでハードな乗り心地かと思いきや、実際にワインディング路を走ると思いのほか乗り心地は優しかった。

ルノー メガーヌR.S.トロフィー。「トロフィー」と名乗っているのでハードな乗り心地かと思いきや、実際にワインディング路を走ると思いのほか乗り心地は優しかった。

3台のなかでは足まわりがもっともソフトで、サスペンションストロークももっとも長く感じられる。このため、荒れた路面でもボディの動きはおっとりしていて、安心感が強い。この点はメガーヌ
R.S.の明らかな長所だが、路面のオウトツにハンドルをとられる傾向が強く、とにかくせわしないのだ。

メガーヌR.S.のキャラクターは、およそ1年前に受けたマイナーチェンジによって多少変化し、ステアリングのダイレクト感が強まったとは認識していたが、よもやこれほどとは思わなかった。よくいえば「操っている実感が強い」と言えなくもないが、残る2台と比べて洗練されたハンドリングとは言いがたい。

とはいえ、メガーヌR.S.のハンドリングが退化するはずはないので、それだけライバルの進化が著しいと捉えるべきなのだろう。それにしても、なんだかキツネにつままれたような気分である。

ワインディングロードでの速さと安定感という意味では、3台のなかではRS3がトップだ。しかし、日本メーカーらしい繊細な感覚で煮詰められたシャシとドライブトレーンの魅力では、シビック タイプRのほうが一枚上手。

残るメガーヌR.S.はステアリングの反応がせわしいものの、ロードホールディング性と乗り心地の良
さには光るものがある。コンパクトスポーツの解釈も、日独仏でそれぞれと言えそうだ。(文:大谷達也/写真:井上雅行、永元秀和)

■アウディRS3セダン主要諸元

●全長×全幅×全高:4540×1850×1410mm
●ホイールベース:2630mm
●車両重量:1600kg
●エンジン:直5DOHCターボ
●総排気量:2480cc
●最高出力:294kW(400ps)/5600-7000rpm
●最大トルク:500Nm/2250-5600rpm
●トランスミッション:7速DCT(Sトロニック)
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・56L
●WLTCモード燃費:11.1km/L
●タイヤサイズ:前265/30R19、後245/35R19
●車両価格(税込):839万円

■ホンダ シビック タイプR主要諸元

●全長×全幅×全高:4595×1890×1405mm
●ホイールベース:2735mm
●車両重量:1430kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●総排気量:1995cc
●最高出力:243kW(330ps)/6500rpm
●最大トルク:420Nm/2600-4000rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・47L
●WLTCモード燃費:12.5km/L
●タイヤサイズ:265/30ZR19
●車両価格(税込):499万7300円

■ルノー メガーヌR.S.トロフィー主要諸元

●全長×全幅×全高:4410×1875×1465mm
●ホイールベース:2675mm
●車両重量:1460kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●総排気量:1798cc
●最高出力:221kW(300ps)/6000rpm
●最大トルク:400Nm/3200rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・47L
●WLTCモード燃費:11.5km/L
●タイヤサイズ:245/35R19
●車両価格(税込):549万円

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