2010年2月、ホンダから新しいスポーツカー「CR-Z」が登場した。最大の特徴はスポーツカーにしてハイブリッドであったこと。これまでにない、いかにもホンダらしいまったく新しいタイプのスポーツカーだった。ここでは発表間もなく行われた国内試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年5月号より)

欧州において、いかにホンダのプレゼンスを上げるか

中年のクルマ好きはホンダCR-Zを見ると、思わず興奮してしまうのではないだろうか。1983年にデビューしたCR-Xを彷彿とさせるからだ。このCR-Xは当初DOHCエンジンをラインナップせず、1.5LのSOHCが最上級だったが、同クラスのFRスポーツ、最新ツインカムエンジンの4A-GEを搭載するAE86レビン/トレノよりも筑波サーキットなどでは速かった。ウエット路面になると、その差はさらに広がり「FFライトウエイトスポーツ畏るべし」という思いを強くしたものだ。

その初代CR-X、そして2代目CR-Xとスタイリングがよく似ているCR-Zなのだが、開発にあたっては「まったくそういうことは意識していません。たまたまデザインスケッチがそうなっただけなんです」と、開発責任者の友部了夫LPLは素っ気ない。中年のクルマ好きとしては、そこにストーリーのひとつもあれば嬉しいのだが、敢えてそうした策を弄さないところが、いかにもホンダらしい。

さて、誕生の背景はどういったことなのか。これまた意外なことに「そもそもハイブリッドありき」 ではなかったそうだ。「欧州において、いかにホンダのプレゼンスを上げるか」ということが出発点だった。

そして若い人に受け入れられる200万円くらいのプレミアムスポーツを造ろうということになる。すると2012年からのEU燃費規制によるCO2排出量130g/kmに対応しなければならない。そして結果的にハイブリッドが採用されたというわけだ。

画像: 日本市場では絶えて久しかった2ドアハッチバックスポーツ。1980年代のCR-Xを彷彿とさせるスタイリングで中年のクルマ好きにはたまらないが、現代の若者にもウケたようだ。

日本市場では絶えて久しかった2ドアハッチバックスポーツ。1980年代のCR-Xを彷彿とさせるスタイリングで中年のクルマ好きにはたまらないが、現代の若者にもウケたようだ。

ハイブリッドであれば、インサイトとの関係が気になるが、そのあたりを順番に説明していこう。まずハイブリッドシステムのIMA(インテグレーテッドモーターアシスト)自体は基本的に両車共通。モーター、バッテリー、パワーコントロールユニットは同一だ。異なるのはバッテリーの冷却能力で、CR-Zが上だ。

さらにエンジンはまったく違う。インサイトが1.3Lの2バルブSOHCに対して、CR-Zは1.5Lの4バルブSOHCを搭載している。また、インサイトはシリンダー休止システムを持つが、CR-Zにはない。アイドリングストップしているとき以外、常にエンジンは回っている。なぜこのシステムを付けなかったのか。それは、付けるとエンジンのヘッドまわりが大きくなってしまい、ボンネットを低くできず、スタイリングが損なわれるからだそうだ。

燃費性能は10・15モードで25.0km/L(CVT)とインサイトの30km/Lよりも低い、しかも5km/Lもの差がある。

しかしそこにはひとつ大きな理由がある。それはタイヤで、サイズがインサイトは175/65R15であるのに対し、CR-Zは195/55R16を装着している。しかもインサイトは一般的な銘柄だが、CR-Zはスポーツ志向タイプだ。パワートレーンを担当するエンジニアによれば「インサイトのようなタイヤにしていれば、2〜3km/Lは燃費を上げることができました。そうしなかったのは、よりよいハンドリングのためです。欧州で通用するようにしたいという狙いがありました」ということだ。

CR-Zというクルマの性格がだんだんに見えてきたような気がする。友部LPLの言葉を借りると「スポーツとエコ、さらに使いやすさを融合(ハイブリッド)させたワクワクするクルマ」ということになる。

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