2010年6月、いよいよ12月から発売が開始されるニッサン リーフの最終量産試作車の試乗会が開催された。当時はまだ乗用車の電気自動車の普及が始まろうとしている時期、その魅力や価値を理解してもらうにはなにかと苦労も多かった。ここでは2010年10月の本格生産開始を前に、その最終的な市販決定仕様の試乗テストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年8月号より)

操作性、生産性を考慮して、あえて既存のデザインを採用

リーフは純粋な電気自動車だが、一見、あまり電気自動車らしくない。専用設計の電気自動車ならば、もっと斬新なデザインにできただろうにとも思うが、これが使いやすく、実によくできている。燃料タンクのある床下に薄型コンパクトなリチウムイオンバッテリーを置き、通常ならエンジンのある位置に搭載される電気モーターで前輪を駆動する。制御ユニットや充電システムもフロントのボンネット内に収まっている。そう、リーフはまるでティーダのようなレイアウトをとっているのがわかる。

なぜわざわざ既存のレイアウトにこだわったのか、それには理由がある。

まずひとつは、ユーザーがとまどわないようにという配慮。操作系も含めて、あまりに奇抜なものは使いにくいし、好き嫌いがわかれる。適度に新しいことが重要だ。

もうひとつが既存のメカニズムを使うことができること。電気自動車ゆえに既存のモデルとの共通パーツはそう多くはないが、それでも共有できる基本パーツはある。さらに、他のモデルと同じ生産ラインを使うことができるというのも大きなポイントだ。これにより、量産化が可能になり、またより多くのユーザーに親しまれるクルマになるというわけだ。量産化が進めば、さらに価格を抑えることもできる。

画像: 専用色のアクアブルー、大型LEDランプなどで新しさとゼロエミッションであることを強調。低速走行ではスピーカーから補助的な走行音を出す。

専用色のアクアブルー、大型LEDランプなどで新しさとゼロエミッションであることを強調。低速走行ではスピーカーから補助的な走行音を出す。

電気自動車らしい痛快な加速性能、クルマという概念が変わりそう

「一見、電気自動車らしくない」と書いたが、その内容はまったく新鮮なものだ。試乗は日産自動車の追浜テストコースを1周するだけにとどまったが、電気自動車らしい痛快な加速性能を味わうことができた。

その最大トルク280Nmはガソリンエンジンで言えば3L V6なみ、しかも発進時からすぐにピークトルクを発生するので、その加速はスムーズそのもの。力強いトルクと精密なトルク制御で途切れなく一気に140km/hまで達する感覚は、ガソリン車では味わえないものだ。

コーナリング性能もなかなかのもの。フロントに置かれる電気モーターは小さく、重量物はボディ床下中心部のバッテリーということになるのでヨー慣性が小さく、小気味のいい回頭性を見せる。バッテリーの小型軽量化は著しく、かつてのような重ったるさは感じない。タイヤの空気圧の設定も適度で、乗り心地も悪くなかった。

また、消費電力を節約するエコモードを選択すると回生ブレーキも強まるので、コーナー手前で減速したい時など効果がありそうだ。

実はリーフは、スムーズなコーナリングを実現するために、100分の1秒単位でモータートルクを制御するということまで行っている。これも走りの安定に貢献していると思われるが、これなどガソリン車ではとうていできないことだろう。

携帯端末などを通して、クルマの状況を確認したり、遠隔操作することができるのも電気自動車の魅力だろう。たとえば、バッテリー残量や航続可能距離の確認、充電完了確認、エアコンの作動なども行える。もちろん、タイマー機能もついているので、指定時間にエアコンを作動させたり充電を開始させたりすることもできる。ガソリン車でも一部採用されており不可能なことではないが、クルマという概念が少し変わりそうな機能だ。 

画像: 試乗したリーフは北米仕様のプロトタイプで左ハンドルだった。リーフは追浜工場をはじめ、米国スマーナ工場、英国サンダーランド工場で生産される世界共通のグローバルカー。

試乗したリーフは北米仕様のプロトタイプで左ハンドルだった。リーフは追浜工場をはじめ、米国スマーナ工場、英国サンダーランド工場で生産される世界共通のグローバルカー。

電気自動車の特性を知って使いこなすことが重要

ただ、電気自動車には苦労も多い。モーター音、走行音が小さいため、これまであまり問題にならなかった風切り音やロードノイズが大きな課題となってくる。これを解決するために、ヘッドライト、アンテナ、ドアミラーの形状なども徹底的に見直されている。また、低速時にはノーズ部分に設置されたスピーカーから補助的な走行音を流す車両接近通報装置も搭載している。

実際に購入を考えるユーザーにとって重要なのは価格だろう。コストを抑えたリチウムイオンバッテリーや部品の共通化により車両価格376万円を実現、補助金を考慮すると実質価格は約300万円ということになる。さらに走行あたりの燃料代/電気代は、ガソリン車の約10分の1と言われているから、少々高めの車両価格もランニングコストで相殺される計算だ。

充電は、急速充電のほかに、200V家庭電源でも可能。時間は必要だが、別のことをしながら充電することもできるので、たとえば深夜に充電しておくといったことも可能だ。

航続距離が短く、しかも使用条件によってそれが大きく変化するなど、電気自動車には欠点もあるが、こうした特性をふまえて、電気自動車をうまく使いこなすことができれば、リーフはこれまでにはない価値、新しい豊かな生活をもたらしてくれることだろう。(文:Motor Magazine編集部 松本雅弘/写真:永元秀和)

画像: 電気モーターの出力は80kW 、トルクはガソリンV6にも匹敵する280Nmを発揮。EV特有のレスポンスも魅力。

電気モーターの出力は80kW 、トルクはガソリンV6にも匹敵する280Nmを発揮。EV特有のレスポンスも魅力。

ニッサン リーフ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4450×1770×1550mm
●ホイールベース:2700mm 
●車両重量:未発表
●モーター:交流同期モーター
●最高出力:80kW
●最大トルク:280Nm
●バッテリー容量:24kWh
●バッテリー出力:90kW以上
●駆動方式:FF
●最高速:140km/h以上
●航続可能距離:200km(JC08モード)
●車両価格:376万円 (2010年当時)

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