コンセプトカー「エアロX」のモチーフを盛り込んで誕生
紆余曲折あって、結局、オランダの少量生産高級メーカー、スパイカー傘下に収まったサーブ。GM時代に開発が終わっていた新型車9-5もラインオフし、ついにサーブの「第二創世記」が始まった。
これはファンにとっては朗報だ。日本市場ではGMアジアパシフィックに代わって、PCIがインポーターとして名乗りを上げた。今年の秋以降、既存モデルとこの新型9-5が日本に上陸するはずだ。
ただ、サーブの今後に関してはまだ楽観視できない。9-5を含めた既存ラインナップの拡販だけでは、トロールハッタンの本社工場を軌道に乗せるのは難しいだろう。かといって、メカニズムをGMに頼り切ってきたため、コンパクトカーやエコカーといった現代の自動車産業の「必須科目」を単独で履修することはほとんど不可能。今後の舵取りに注目したい。
サーブとしては、まずはこの新型9-5今一度、その存在を世界に知らしめておきたいところ。実際、コンセプトカー「エアロX」から特徴的なモチーフを拝借した初めてのサーブということで注目を集めてもいる。新たなデザインテイストを世に知らしめることで、ブランドイメージの再構築を図りたいというのが本音だろう。
サーブらしく、全グレードにターボを搭載
さて新型サーブ9-5は、オペル・インシグニアと兄弟車である。ホイールベースが100mm長いだけで、エンジンラインナップなどメカニズムのほとんどを共有する。ただ全グレードをターボ車とした点が、いかにもサーブらしいところだ。
インテリアはといえば、ここ最近のサーブ的手法に則ったもので、イグニッションはスターターボタンとなり、メーターの表示色は今となってはかえって新鮮なグリーンだ。室内は確実に広くなり、特に後席レッグルームは十二分。独立したトランクルームにはU字型のカーゴレールまで備わっている。
インシグニアのヨーロッパにおける評判が良かったので期待してトロールハッタンに出掛けたが、結論から言うと、クルマそのものの仕上がりは期待に違わず上々であった。
たっぷりとしていてホールド性のいいシートに落ち着くと、まず独特の景色が眼前に広がる。フロントスクリーンが飛行機のキャノピーのようにかすかに湾曲していて、切り取られる視界の形状がユニークなのだ。ATのシフトノブは逆L字型ダッシュボードの割と高い位置に置かれている。「らしい」雰囲気である。
加速フィールもまた、サーブらしい。ターボは目立たず騒がず、けれども強力な推進力を発揮する。若干のフロア振動が気になったが、その他、ボディのしっかり感、足まわりの食いつき、静粛性などは十分コンペティティブで、初めて乗ってもすっと馴染んでいける。悪くいえば個性が弱いが、よく言えば安心して身を任せられる。そんなクルマだ。
スポーツモードにセットすれば、一転、ハンドリングを楽しめるレベルにまでクルマそのもののマナーがヒートアップする。メカニズム的な見どころは少ないけれども、完成度は高い。アウディA6などの好敵手となるはずだ。(文:西川 淳)
サーブ 9-5 ターボ6 XWD 主要諸元
●全長×全幅×全高:5008×1868×1467mm
●ホイールベース:2881mm
●エンジン:V6DOHCターボ
●排気量:2792cc
●最高出力:220kW(300ps)/5500rpm
●最大トルク:400Nm/2000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●最高速:250km/h
●0→100km/h加速:6.9秒
※EU準拠