公道ではLSDの違いがよくわからない
コーナーに差し掛かり、減速操作と再加速を行うと、走行性能の違いをうっすらと感じる。うっすらというのは、試乗コースがサーキットではないワインディングで、しかも目の前で融雪剤を散布されてしまったことでビビりながら走行したため、開発陣に教わった新開発のLSDが得意とする“減速旋回時の安定性”が必要となる場面がなかったということである。
ポンコツ筆者によるチキンな走行では減速時にそこまでの差を感じ取れなかったが、エンジンのレスポンスとコーナリング中~後半の接地感の向上、再加速シーンでの安定性の違いについては感じることができ、タイヤの食いつき具合が少し上がっている印象を受けた。
レスポンスについては前述のエンジンサウンド変更によって耳が反応してしまっている(プラシーボ効果)の可能性があり、安定感の向上については前述のパワステ改良による操作フィールの向上と車重が少し重くなったことに起因しているかもしれないため、なんとも言えないというのが嘘偽りない感想だ。
つまるところ、少なくとも公道走行においては、スムーズに回せるようになったステアリングホイールや、より大きくダイレクトに耳に入ってくるエンジンサウンドに変わったというわかりやすい変更点がまず存在し、その裏で走りを支える新LSDが安定性をさりげなくサポートするという組み合わせで新たな走行フィールを生み出していると感じ、LSD単体での恩恵を感じることはなかった。もしかすると、2021年モデルまでのKPC非搭載車との比較であれば、より大きな違いを体感できるのかもしれない。
今回の改良では最大の特徴であった「車体重量」が重くなってしまった代わりに、その増えた車重を感じさせないようにエンジンサウンドといった官能性に加えて、パワートレイン・シャシーの両方をアップデートし、バランスを取ったことで、よりしっかりとしたドライビングフィールにつなげているように感じた。
可愛くてふわふわした女の子がキリッとした美人になった
このご時世にこんな表現をするのは不適切かもしれないが、あえていうなら大幅改良モデルは「小さい頃いつも一緒にいた幼馴染の女の子が、大人になって久しぶりに会ってみるとキリッとした美人になっていた」というイメージで、ちょっとポンコツで優しく扱いたくなる「みあちゃん」(※米国名:Miata)から、なんでもテキパキとこなす「ミアさん」になった印象だ。
ロードスター(ミアータ)という同一人物であり、基本的な性格にも変化はないものの、女の子から大人な女性に変化した感じといえばわかりやすいだろうか。
改めて今回の改良を一文でまとまえると、内外装の質感が大きく近代化して街乗りの満足感が向上し、10~20kgの重量増分を補うためにエンジン制御変更やサウンドの追加、アシンメトリックLSDによる安定性向上を行い、スポーツカーとして一歩ステップアップした、ということになる。
これにより、公道ドライブメインの方でも、目に見える部分の質感が高まったので所有満足度が上がり、走行安定性が向上したことで普通のスポーツカーのようにカッチリとした走行フィールになったので、サーキット走行にチャレンジする方にも嬉しい改良であることは間違いない。
ロードスターならではのひらひら感という意味では、従来のロードスターの方がふわりとした走りをしているため、端的に言えばひらひら・ふわふわ・可愛いロードスターが好みであれば従来モデルを、よりきっちりした“スポーツカー”としての走りや内装のラグジュアリー性、最新のシステムを求める方は新モデルを購入すると良いのではないだろうか。
ロードスターは、乗り手の想いに応えてくれる素直で優しいクルマなので、自分が気に入ったモデルが自分にとっての最良のパートナーである。
筆者の場合は新しくなった「ミアさん」との“ドライブデート”でその良さを味わいつつ、「みあちゃん」と比較することで自分の愛車の良いところに改めて気付き、これからも人生を共に歩んでいきたいと思った、そんな試乗会であった。