メルセデスAMGとアウディRSという方向性の異なるハイパフォーマンスモデル
考えて見ればみるほど、メルセデスAMG C63 S Eパフォーマンス(以下C63 S)とアウディRS6アバント パフォーマンス(以下RS6)の比較テストは興味深い企画だと思う。
なぜならば、それは今後のスポーツモデルの方向性を指し示すと同時に、メルセデスAMGとアウディRSというハイパフォーマンスブランドの違いを再確認することにもつながるからだ。
まず、C63 Sからして、メルセデスAMGの歴史に残るモデルといえる。
同ブランドの最高峰として長らく君臨してきた“63”といえば、V8の代名詞というべきシリーズ。しかし、最新のC63 Sでは、V8エンジンに換えて排気量2Lの4気筒エンジンを搭載したのである。
地球温暖化問題が注目されている現在、エンジンのダウンサイジング自体いまさら珍しくもないが、メルセデスAMGが(一部モデルとはいえ)V8エンジンを取り下げるとなると、これは大ごとである。
なにしろ、AMGが世界的に注目されたのは、ハンス・ヴェルナー・アウフレヒトとエバハルト・メルヒャーのふたりが手がけたメルセデス・ベンツ300SELが、1971年スパ24時間でクラス優勝を果たしたことがきっかけ。
そこに積まれていたのが排気量6.8Lに拡大されたV8エンジンだったので、これまでAMGとV8エンジンは切っても切れないほど深い関係にあったのだ。
C63 Sで興味深いのは、フロントに搭載されたエンジンが直4になっただけでなく、リアに最高出力204psのパワフルなモーターを搭載し、両者の出力を足し合わせたうえで4輪に配分する4WDとした点にもある。
しかも、私が2022年に参加した国際試乗会では、従来のC63とは比べものにならないほど乗り心地が快適になったうえに静粛性も向上。ハンドリングも、前後重量バランスの改善と4WD化により、かつてないほどレスポンスが鋭く、良好なスタビリティに仕上がっていたのである。
ハイパフォーマンスとスタビリティ、万能性を手に入れたRS
4WD化によってスタビリティが改善され、乗り心地も快適なハイパフォーマンスモデルといえば、これまではアウディのRSモデルが代表例だった。
なにしろ、その元祖にあたるRS2アバントは、フルタイム4WDであるのはもちろんのこと、現在のA4アバントに相当する80アバントをベースに開発されたほか、アウディの特徴的な直列5気筒エンジンはポルシェの手で315psにまでパワーアップされていた。
つまり、アバント=ワゴンの実用性・快適性とポルシェ由来のパフォーマンスを1台に合体させたのがRS2であり、そこにフルタイム4WD=クワトロが組み合わせることで、それまでのハイパフォーマンスモデルには期待できなかったスタビリティと万能性を手に入れた点にRSモデルの真骨頂はあった。
最新のRS6 アバント ハイパフォーマンスは、既存のRS6をさらに高性能化したモデルで、48Vマイルドハイブリッド搭載の4L V8ツインターボエンジンは従来比+30 psの630psを発揮。0→100km/h加速を3.4秒でクリアする瞬足の持ち主だ。
なお、これまで日本で販売されてきたRS6は、ドイツ本国ではオプションのメカニカルなスポーツサスペンションしか設定されていなかったため、「乗り心地はハード」というイメージがつきまとったが、2020年発売の現行型よりエアサスペンションも選べるようになり、RSモデルらしい快適な乗り味が楽しめるようになったことを付け加えておく。