さながら「最後の晩餐」・・・忘れ難き英国製V8ユニットの行方②ベントレー

画像: 1959年登場のベントレーS2(左)から始まったLシリーズの歴史。最後は、ミュルザンヌの最終生産モデルだ。

1959年登場のベントレーS2(左)から始まったLシリーズの歴史。最後は、ミュルザンヌの最終生産モデルだ。

画像: 60年にわたり約3万6000台に搭載され続けてきたベントレーの「6と4分の3リットル」V8ユニット。最大トルクは1100Nmに達した。

60年にわたり約3万6000台に搭載され続けてきたベントレーの「6と4分の3リットル」V8ユニット。最大トルクは1100Nmに達した。

英国製のV8といえば、もうひとつの名機がつい最近、その役目を終えたばかりである。前述したロールスロイス&ベントレーの時代に開発され、1970年代に入ってかの6.75Lへと排気量アップを果たしたL410ユニットだ。

最後に搭載されたモデルは、2010年から10年間にわたりベントレーのフラッグシップとして君臨したミュルザンヌである。

筆者はこの6.75L V8 OHVをキャブ仕様のNAユニットから、インジェクション、ターボ、ツインターボ、そして最後の可変バルブタイミング仕様まで数多く試乗した経験があるが、いずれのエンジンも当代一級の速さと力強さ、そして心地良い静粛性を誇っていた。

ことにベントレー用のL410は常にノーズの先でたおやかに、けれどもはっきりとその存在感を示しながら回っており、踏めば踏むほど湯水の如く溢れるトルクに魅了されることもしばしばで、ドライバーズカーたるベントレーの面目躍如というものだった。

同じ年代のロールス・ロイスと乗り比べてみても、運転したいと思わせるという点でベントレーが不思議と優っていた。おそらく、エンジンスペックの違いがそう思わせたのだろう。(文:西川 淳/写真:井上雅行/Motor Magazine2021年11月号よりダイジェスト)

まとめ・・・なぜ人は「ぶいはち」に特別な感情を抱いてしまうのか?

ピュアなエンジンか、電気モーター+バッテリーか。いつまで経ってもそんな二者択一のデジタル思考がはびこる理由は、クルマ好きにとって〝エンジン種別の記号性〟がどこまでも核心であるからにほかならない。

画像: C8 シボレー コルベットZ06に搭載されるLT6ユニット。ここから新たな「V8ストーリー」がまた始まることだろう。

C8 シボレー コルベットZ06に搭載されるLT6ユニット。ここから新たな「V8ストーリー」がまた始まることだろう。

クルマの特徴を表す数ある呼び名、たとえばクーペとかリアスポイラーとかカーボンバケットシートとか、のなかでも、エンジンの形式と気筒数を表す言葉は、ことのほかクルマ好きの心を刺激するものなのだ。

クルマ好きの範囲をグローバルにまで広げたとき、もっとも多くの人々を喜ばせるエンジン記号はというと間違いなくV8だろう。V12は凄いがちょっと浮世離れしすぎている。

フラット6は少々マニアックで、ストレート6はブランド限定品のようだ。V6に至ってはマルチシリンダーのなかにあってもなぜか格下感が漂っている。直4以下は言うに及ばず。

その点、フランスで生まれアメリカで育まれたV8は手の届く憧れのエンジンの代表格だろう。今では生まれ故郷において見る影もないことは皮肉なものだけれど、育て親がその代わりを果たして余りある状況にある。

筆者も過去にアメリカンV8搭載モデルを都合4度所有したが、巨大なトランスミッションを連結したパワートレーンにシートをくっ付けてまたがっているかの如きバイブレーションに魅了されたものだ。

アメリカ以外の国でもV8は高性能エンジンの証として今なお重宝されている。イギリスやイタリアといった個性あふれるモーターリゼーションを果たしてきた国々では、今も昔もV8は常に、クルマ好きのリアルな憧れを獲得してきた存在なのだ。(文:西川 淳/MotorMagazine 2024年4月号より抜粋)

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