刺激は穏やかになるも驚くほどの洗練ぶり
次に乗ったのは、1989年式の944ターボである。直列4気筒2.5Lターボエンジンは、最高出力250psで、最高速度は260km/hとされる。
排気量は911ターボ3.0より小さいのに低回転域でもトルクのツキは十分で、ターボラグは感覚的には3分の1くらい。過給ゾーンに入っても、どこかに飛んで行っちゃいそうとは思わせないが、回したなりの快感はちゃんとある。この洗練ぶりが15年という月日のなせる技だ。
理想のFRスポーツと言われたフットワークは、操舵に対する反応が正確で、旋回中はニュートラルな姿勢を保ち、そして立ち上がりではしっかりリアに荷重がかかる。サスペンションストロークがたっぷりしているので、乗り心地も良い。速度が上がってもフィーリングに変化がないのだ。まさに教科書的と言えるが、そのぶん刺激は薄めかなというのが、率直な印象である。
続いて乗ったのは初代カイエン のトップモデルであるターボS。2002年にデビューするや、あのポルシェが?という驚きとSUVの概念を変えるスポーツ性で大ヒットとなったカイエンに2006年に追加された。
最高出力521psを発生するV型8気筒4.5Lツインターボエンジンを搭載、約2.4トンという車重にもかかわらず、0→100km/h加速が5.2秒、最高速度は270km/hという怒涛の速さを発揮した。
意外だったのは着座位置の高さ、そしてストローク感のある乗り心地だった。現行モデルに較べると当時は格段にSUVっぽい雰囲気、走りだったのだなと時の流れの速さを実感させられたのだ。
この重い車体を軽々と加速させるエンジンは、さすがの迫力である。低速でゆるゆる走らせている時には余裕綽々。右足の動きに即応するレスポンスも心地良い。それでいてトップエンドに向けては、二次曲線的に盛り上がるパワーと突き抜けるような吹け上がりを堪能できるのだ。
新しい時代にあって、Turboは再定義される
思えば、ちょうどこの年に登場したタイプ997の911ターボは、VTG(可変タービンジオメトリー)を用いたツインターボエンジンを搭載して、事実上ターボラグゼロを実現していた。要するに、この時に至ってターボラグなるものは完全に解消されていたわけである。
実際、続いて乗った2010年式のパナメーラターボでは、むしろ低速域の分厚いトルク、精緻なレスポンスが印象的だったほどだ。さらに、最新の911ターボに乗れば、扱いやすさとトップエンドの炸裂感の絶妙なブレンドぶりに感心させられることになる。
そして、そうした全域スムーズかつ力強いパワー感が最終的に結実したのが、最新のBEVであるタイカンターボ。そんな風に評することができるかもしれない。
ここに来てポルシェは、「ターボ」の存在を再定義するかのように動いている。昨年には、専用色「ターボナイト」を、クレストエンブレムをはじめとする各部に採用すると発表した。今後は動力性能、テクノロジーだけに留まらずエクスクルーシブ性という面においても、その特別感をより強固にアピールしていくつもりだろう。
カレラだってターボなのにとか、電気自動車にターボって?などとは、もはや言わせないためにも。
今後は、BEVを含む新しいターボモデルが続々と上陸してくるはずだし、本命911ターボの登場だって控えている。さらに言えば、来年のル・マン24時間レースでも、ポルシェはきっと勝てるマシンを用意してくるだろう。
ポルシェの「ターボ」が今後、改めてその存在感を強めてくることは、どうやら間違いなさそうだ。(文:島下泰久 写真:ポルシェジャパン)