スポーツマインドいっぱいのプライベートスペシャリティカー
昭和53(1978)年11月にホンダから発売されたプレリュードは、あらゆる意味で衝撃的なデビューを飾ったモデルだった。まずプレリュードというクルマの位置付け自体が、当時の日本車では非常に珍しい存在だった。
プレリュードは純粋なスポーツカーでもスペシャリティカーでもない、完全にプライベートカーとしての割り切りが、クルマの各部に表れていたのだ。室内は前席回りの居住性を優先した作りだ。ワイド&ローにまとめられたスタイリングも、この割り切りが可能にしたものと考えても過言ではない。
直線を基調とした2ドアクーペボディもその割り切りが可能としたと言えるだろう。ロングノーズショートデッキ、ワイド&ローなスタイルはスポーティな精悍さを感じさせる。さらに細いピラーとラウンドウインドウが軽快さと力強いデザインを両立した。また、それによって広い視界を確保できたとも言える。
機能を重視したインスツルメントパネルは、スピードメーターとタコメーターを同軸上に配した独特なデザインとした。これは「集中ターゲットメーター」と称した。合わせて各種インジケーター類をまとめることで、視線移動を少なくし的確な情報を得ることができるものだ。
ロータリー式オートラジオを、自然な姿勢で操作できるようメーター横にコンパクトに収納したのもポイントだ。電動式サンルーフを標準装備し、開放感あふれるドライブを楽しめる。
パワーユニットを見ていくと、ここで紹介するXRに搭載されたエンジンは、1750ccの直列4気筒SOHC。環境性能に関してはCVCCエンジンで、 53年排出ガス規制に適合している。エンジン内部では、エイトバランスウエイト採用のクランクシャフト、コンロッド、ピストンなど、主運動系部品のバランスを綿密に調整し、振動発生を低く抑え静粛性の高いエンジンとしてある。
最高出力は90ps/5300rpmと発表されたが、これも当時としてはなかなかに魅力的な数字だった。組み合されたトランスミッションは、5速MTもしくは3速ATとなる。
ボディ・シャシ回りでは、剛性の高いモノコックボディにエンジンルームのサブフレームを一体化させ、軽量化と剛性を合わせて向上させている。フロントとリアのピラー、サイドルーフレールは二重箱構造とし剛性アップを図った。また、高剛性窓枠をもつフルドア、ルーフパネルの構造強化などにより、車室部の安全性を向上させている。
剛性だけでなく快適なドライビングのために、不快な振動、騒音を軽減する独自な設計を数多く採用しているのもポイントだ。例を挙げれば2本のトルクロッドとセンタービームにV型に配置した適正なバネレートのエンジンマウント、プリチャンバー、大型サイレンサーとフレキシブルエキゾーストパイプ、ドライブシャフトのダイナミックダンパーなどがある。
サスペンションは、前後輪にスタビライザーを備えた独自のストラット式4輪独立懸架が採用された。ストラット式の弱点といわれる横方向からの入力に対する弱点を補うためにオフセットスプリングも採用された。これらによる軽快なフットワークもプレリュードの特徴となっている。
ブレーキはフロントがディスク、リアがリーディングトレーリング式を採用した。適切な容量のマスターバックによるサポートを与えることで、軽い踏力で十分な制動力が得られるようにされている。
プレリュードは、その名のとおり、新世代のホンダ車の前奏曲だった。この後、昭和54(1979)年4月に発売された2代目シビックには、プレリュードのシャシ、エンジンマウント、メーターなどがほとんどそのまま組み込まれている。
プレリュードは動力性能を別にすれば、そのハンドリング/足回りは、当時の代表的スポーツカーに勝るとも劣らないものを持っていて、ホンダ技術のショールームのようなクルマといえた。
日本で新しいセグメントを確立したばかりでなく、トータル性能に優れた走りを満喫できるスポーティモデルとして登場したプレリュードは、その後の日本車に大きな影響を与えた、まさに昭和50年代前半(1970年代後半)の日本車を語る上で欠かせない存在である。
ホンダ プレリュードXR(SN6型)諸元
●全長×全幅×全高:4090×1635×1290mm
●ホイールベース:2320mm
●車両重量:900kg
●エンジン型式・種類:EK・直4SOHC
●排気量:1750cc
●最高出力:90ps/5300rpm
●最大トルク:13.5kgm/3000rpm
●トランスミッション:5速MT
●タイヤサイズ:175/70SR13
●新車価格:138万円