長距離の移動でも疲れは最小限に抑えられる
センターコンソールにはシフトセレクターや回生モード等の物理スイッチが配置され、さらにその下には「エコ」、「ノーマル」、「スポーツ」、「サンド」、「マッド」、「スノー」の6種類のドライブモードが選択できる、セレクテレインのスイッチも備わる。
今回の試乗ではサンド以降のモードを実際の環境下で試すチャンスには恵まれなかったが、ヒルディセンドコントロール機構との組み合わせで、駆動方式がFWDというジープファンにとっては気がかりな問題も、十分に解消できると考えられる。
低速域ではかなり軽めのフィールを伝えてくるハンドリングだが、これもオフロードでのキックバックを考えれば当然のセッティングと考えるべきだろう。だが一度市街地レベルにまで車速が高まれば、そのステアリングフィールはしっかりとした手応えと正確性を感じさせるものになり、高速道路でも直進を保つのに不安を感じることはない。全車速追従型のアダプティブクルーズコントロール、レーンキーピングアシスト、レーンポジションアシストといった運転支援システムの制御も自然なもので、これならば長距離の移動でも疲れは最小限に抑えられると思われた。
乗り心地はかなりスポーティだ。試乗車には215/60R17サイズのグッドイヤー製エフィシエントグリップ2タイヤが装着されていたが、ワインディングロードをハンドルの動きに正確に、かつ1580kg のウエイトを感じさせずに俊敏に駆け抜けていくフィーリングには、低重心なBEVとしての魅力が十分に表れているように思った。アベンジャーの走りはオンロードでも、そして(おそらくは)オフロードでも多くのカスタマーを感動させるに違いない。
参考までに、このジープアベンジャーのWLTCモードでの一充電走行距離は486km。その数字もほとんどのユーザーにとっては満足できるものであるはずだ。
500eに100の魅力を追加するというコンセプト
それではもう一方のフィアット600eはどうか。フィアットのBEVといえば、すでにAセグメントの500eが日本市場にも導入されているが、600eの開発コンセプトはその500eにさらに100の魅力を追加するという「500+100」。それをまず実感できるのは、やはり巧みなパッケージングだろう。
フィアットにはかつて1950年代に600というシリーズを生産していた経緯がある。現代に復活した600eのスタイルは、この1950年代に600をベースに生産されたムルティプラのイメージを想起させてくれるもの。ヘッドランプの上部にボディと同色のカバーが備えられるため、どことなく眠たげな、そしてコミカルな印象を与えるフロントマスクだが、これもまた彼らなりの楽しさの演出なのだと考えれば、ネガティブな考えは生まれてはこない。
全長4200×全幅1780×全高1595mmというボディサイズは、ジープアベンジャーよりも、全長と全幅ではわずかに大きな数字となるが、実際の市街地での使い勝手はほとんど変わることはない。車内からの見切りも良好で、ブラックが基調色となるアベンジャーとは異なり、アイボリーカラーが基調で、シートにはFIATのロゴステッチなども入るキャビンは、とても明るい雰囲気だ。この600eを手にしたら、それで何をしようかと自分自身のライフスタイルの変化さえ想像したくなる楽しさを、まずはそのデザインや演出から感じるモデルである。
キャビン後方のラゲッジルームの容量は360Lで、これはBセグメントにおいては最大の数字であるとフィアットはアピールする。後席を使用しても短期間の旅行程度の荷物ならば余裕を持って積み込むことができる使い勝手もまた大きな魅力であるし、後席を前倒しすればこの容量はさらに1231Lにまで増やすことができる。