頑丈なCFRPモノコックキャビンがもたらす圧倒的な塊り感
ムルシエラゴ以前と違ってドアが真上に上がらず、やや外に向かって開く。開口部は狭め、頭をぶつけないように注意しながら、身体を折り畳むようにしてお尻から身体を運転席に落とした。従来の作法どおり。
シートのノッチを〝かなり〟前に出し、突き出たステアリングホイールを調整した。エンジンスタートボタンは、センターコンソールの赤いカバーの下。戦闘機のようである。
TFT式モニターのメーターは、バーチャルリアリティの世界観。リアルがバーチャルに、バーチャルがリアルに。再び、立場が逆転したというわけか。背中と腰を揺らすようにして身体とシートの密着具合を確認したら、ひとつ深呼吸をして、スターターボタンを押した。
猛牛のV12エンジンは轟然と回り始めた。あたり構わず人を驚かす、相変わらず猛々しい音である。まったく新しくなった60度V12は6.5Lという排気量こそ変わらないが、従来のスクエアストローク型からショートストローク型へと原点回帰し、できうる限りの軽量化と効率化が図られた。組み合わされる2ペダル式7速AMTや4WDシステムも同じ目標に沿っての完全新開発だ。
それゆえ、サウンドにこそ轟然さを残しているものの、パワートレーンからの余計なノイズや振動がほとんど伝わってこない。ムルシエラゴ以前にはあった、ドライバーの背中を打ち震わせるような、挑発的な〝演出〟がないのだ。洗練されている。
それにしても、ものすごい塊り感である。頑丈な自家製CFRPモノコックキャビンに守られており、エンジンもそのパッケージの完全な一部分となっているかのようだ。確実に背後で息づくが、背負っているという感じがしない。人とエンジンが CFRPモノコックキャビン(とアルミのサブフレーム)を介して見事に融合している。それだけではない。ノーズもタイヤもボディパネルも、すべてがすべて一体と感じられる。
だから、動き始めてなお、クルマが小さく感じられる。ことによるとガヤルドより小さいとすら思える。
極めて重心が低く、地面を這うようにして走っているということ以外、クルマのシルエットを思い出させるような、肌で感じるサイズ感に乏しい。極論すれば、キャビンだけで動いている感覚。最新のスーパーカーという意味では、マクラーレンのMP4−12Cと似た印象だ。
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12気筒の咆哮を猛々しく響き渡らせながらローマ市内を走るアヴェンダドール LP700-4。
猛々しさと洗練の両立、サスペンションはしなやか
この一体感と振動のなさは、絶妙な乗り心地も生んだ。さらにはオートマチックモードによる小気味の良い変速。「ISR」と名付けられた7速AMTは、独立したシフティングロッドを4本備えて、あたかもパラレルに変速を促すもの。アクセルペダルを軽く踏んでいる限り、「タタタタタ」とギアを上げていく。4WDシステムの変更も利いているのだろう、微速域のマナーも悪くない。
もちろん、踏み込んでしまうとAMT特有のしゃくりあげが出るからそこは3ペダル時代を思い出し、アクセルを戻してやる必要があった。
ガヤルド搭載の最新eギア比で4割もの変速時間短縮に成功したというISRミッションの性能を確かめるべく、最もハードなコルサモードでサーキットを攻め込んでみる。
恐ろしいまでのシフトアップスピードとダイレクト感である。あまりに凄過ぎて、内臓が飛び出るかと思ったほど。一周も堪え切れず、スポーツモードに。コチラでも十分に速い、というかプロでもない限り、スポーツをオートで乗る方が速い!
加速そのものも、ベラボーである。間違いなく、ヴェイロンの次に速い。新エンジンは精密かつ軽快に吹け上がり、雑味というものがない。高回転域での力と音は感動ものだ。もちろん、外で聞いている方が、もっと身震いさせられるが。
特筆すべきは、これまでになく、ガヤルド以上にハンドリングマシンだったということ。とにかく前後のアシがよく動き、Pゼロコルサ(オプション)が路面に喰らいつく。サスペンションストロークも十分で、レスポンスも自然。そのうえ、ドライバーが不用意にパワーを引っ張り出しても、ハルデックス4の電子制御4WDシステムが、オーバーステアを回避すべく、フロントへトルクを回して、絶妙に姿勢を制御する。
最も気持ち良かったのは、高速コーナーを180km/h前後で抜けることだった。11度までせり上がったリアスポイラーによるダウンフォースとプッシュロッド式ダンパーを備えたしなやかなサスペンションで、腰の入った素晴らしく安定した姿勢で駆け抜ける。
誰もがハイレベルなスーパーカーの走りを経験できるという点でも、バーチャルからリアルへの劇的な回帰が起こった。スーパーカーの新・王道は、ハイパワーと軽量化、電子制御によってもたらされたのだ。(文:西川 淳)
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ダッシュボード左側、そしてセンターコンソール上にズラリと並ぶスイッチ群。操作系のメカニカルな演出が実に効果的。
ランボルギーニ アヴェンタドール LP 700-4 主要諸元
●全長×全幅×全高:4780×2030×1136mm
●ホイールベース:2700mm
●車両重量:1575kg(乾燥重量)
●エンジン:V12DOHC
●排気量:6498cc
●最高出力:515kW(700ps)/8250rpm
●最大トルク:690Nm/5500rpm
●トランスミッション:7速AMT
●駆動方式:4WD
●最高速:350km/h
●0→100km/h加速:2.9秒
※欧州仕様 EU準拠