トランスミッションギヤ比の変更とRSではファイナルレシオの選択も
トランスミッションも大きく変わった。部品点数の減少で軽量化された部分もあるが、ユーザーにとって大きいのは、ギアレシオが大幅に見直されたことだ。具体的には一般普及仕様のGSRと競技ベース仕様のRSでギアレシオを区別し、さらにRSでは、ファイナルギアレシオもローギアードとハイギアードの2種類が選べるようになったのだ。

フロントバンパー内側には、エボリューションⅢよりもさらに大容量化されたインタークーラーを装備。ラジエターグリル前のバンパー上部も整流効果を発揮する形状とされ、空力性能が追求されている。
一般走行とモータースポーツ走行では当然、常用するエンジン回転数も異なり、それにともなってトランスミッションのギア比も違ったものが求められる。メーカーがそれを選べるようにしたというのは画期的だ。GSRでは、クルージング性能と燃費が重視されたのに対して、RSでは現実に国内競技を考えると、より高回転が維持できてパワーバンドをキープしやすく、出力トルクをアップできるという意味で、ローギアードのファイナルギアレシオを選ぶ場合が多かった。
パワーユニットとトランスミッションの位置関係は変わったが、センターにビスカスLSDを採用したフルタイム4WDというコンセプトはそれまでと同じだ。だが、リアデフにAYCが採用されたのがエポックメイキングな出来事となった。

リアディファレンシャル部と一体となったAYC機構。電子制御式式多板クラッチと像減速ギアシステムを装備。
これはリアの左右のタイヤのトルクを移動させヨーモーメントを発生させる機構といえる。AYCの構成を簡単に解説すると、オープンデフを左側に、左右独立の制御用多板クラッチを右側に配置している。さらにデフケースの回転速度に対して増減速ギアを設け、右タイヤ駆動軸上に進み軸と遅れ軸を二重にする構成となっている。
作動としては、クラッチをスリップ結合させると高回転側から低回転側にトルクを伝達する原理を利用したものだ。左旋回する場合、右クラッチをスリップさせながら継合させると、トルクが進み軸からそれより回転の遅い右タイヤの駆動軸に伝わる。これで右タイヤにトルクが伝わり駆動力が大きくなる。
右旋回の場合は、左クラッチが作動し相対的に回転の速い右タイヤの駆動軸から遅れ軸にトルクが伝わり、そこからデフを経由して左タイヤの駆動力が大きくなるという働きをする。このトルクの移動によりヨーを発生するわけだ。多板クラッチの締結力は、ハンドル角、アクセル開度をヨーレートセンサー、Gセンサー、車輪速センサーで検出し、その情報を元にオイルポンプを作動させ制御する。
ランサーエボリューションは、エボリューションIからエボリューションⅢまで改良されてはいったものの、基本的には曲がりづらいクルマと言われ続けたが、AYCは、こうした評価を一気に覆すべく開発されたものであった。