空力性能の向上は細かな部分の積み重ねで達成

特別な押し出し感を演出する訳では無いが、まとまり感のあるリアビュー。WRCで鍛えられた力強さを感じさせる。
ボディ関係で目を引く部分を挙げていこう。ぱっと見で気がつくのは、フロントバンパーのライセンスプレート位置がオフセットされていることだ。さらにオイルクーラーベンチレーターやエアブローダクトの採用により、吸気効率、冷却効率、空力性能を向上させている。吸気効率のアップは、エンジンパワーを有効に発揮するための基本中の基本でもあり、メーカーがこういうところに気を配ってくるのは、気合の現れだ。
空力面では、リアウイングが小型化されたのが注目された。これは単にデザインの変更ではなく、1999年のWRCレギュレーションに対応したものだ。本来ならば、それまでの大型ウイングの方が良かったわけだが、小型化せざるを得なくなったとも言えるわけで、グループAホモロゲーションモデルとしての辛さといえるだろう。ただ、妥協して小型化しただけでもなく、戦うための工夫が凝らされている。具体的には仰角可変ツインリアスポイラーとし、小型化しながらも2枚翼とすることで、エボリューションⅤと同等のダウンフォースを確保している

アルミニウムのボンネットはランサーエボリューションシリーズを通じての伝統だ。吸気だけでなく、効率の良い抜けも考慮している。
モータースポーツ競技ベースであるRSグレードの設定も引き続き行われた。インテリアはGSRでは、レカロシートにブラックとブルーを基調とした生地を採用するとともに、本革ステアリング、本革巻シフトノブ、シフトブーツにブルーステッチを採用し、よりスポーティで上質な室内とした。また、メーターの文字盤のブルー化、メーター目盛りの変更により視認性を向上させ、ホイールはOZ社新デザインの17インチアルミ合金製を採用した。
ブレーキは、ブレンボ社製ブレーキシステム(フロント17インチ4ポットキャリパー、リア16インチ2ポットキャリパー)のキャリパー剛性を向上させた。これはRSにはオプション設定となった。エボリューションⅤと同じだが、国内モータースポーツユース(ラリー、ダートトライアル、ジムカーナ)では、ブレンボ装着車を選ぶことは、競技特性、使用タイヤ、コストの面からみて、皆無ではないにしろ多くはなかった。

エボリューションⅥは1999年、マニュファクチャラーズタイトルは逃すが、マキネンが4年連続ドライバーズタイトルを獲得した。
ただ1台だけ純粋なグループAレギュレーションでホモロゲーションを取得
モータースポーツでの活動を見ていこう。鮮やかな深紅のマールボロ・カラーに彩られ1999年の開幕戦モンテカルロラリーに登場したランサーエボリューションⅥは、それまで3年連続ドライバーズチャンピオンを獲得した実績と信頼性を見せつけるようにライバルのWRカーを抑えて見事に開幕戦を勝利で飾り、幸先良いシーズンを迎えることになった。1999年のWRCを闘うラリーカーのなかで、ただ1台だけ純粋なグループAレギュレーションでホモロゲーションを受けたクルマでもあった。
そういう面で、新しい世代のWRカーを送りだすライバルたちに対して、改造範囲の少ないグループAは明らかに不利な状況になりつつあった。それにもかかわらず、WRカーを凌ぐ速さをみせるランサーエボリューションに対して、FIAは2段リアウイングをラリーカーで使用する規制を行い、それ以降、2段リアウイングは使用できなくなった。しかし、それでもなお開幕戦に続きスウェーデンでも勝利を飾り、その速さに翳りはなかった。とはいえ、前年の戦闘力の高さを維持するだけでシーズンを勝ち続けることができるほど、WRCは甘い世界ではない。
エボリューションⅥは、絶え間ない開発と熟成によって速さに磨きを掛けながら、熾烈な1999年シーズンを闘った。特にエンジンについては、かつてないほどの改良が行われた。具体的には、カタルニアラリーから採用された新しいツインスクロールターボには、高温での耐久性に優れ、かつレスポンスの向上を狙って、軽量チタンアルミ合金製のタービンホイールが使用されていた。さらに、このイベントから1年がかりで開発を進めてきた軽量エンジンが投入されたほか、シーズン終盤戦では圧縮比を上げたニューエンジンが搭載された。パワー&レスポンスともにドライバーから「最強」との賛辞が与えられるほどだったと言われる。

1999年のWRCではライバルはすべてラリースペシャルマシンのWRカー。それでも強さは変わらなかった。
駆動系では三菱独自の電磁式多板クラッチを使用するアクティブ4WDの完成度がさらに高まった。これが大幅に改善されたことで、ランサーエボリューションの速さを生む原動力となっていた。さらに、サンレモラリーからは待望のリア・アクティブデフが採用され、コーナーにおける安定性が向上している。これまで長期間にわたる開発作業によって生まれたリア・アクティブデフの登場によって、チャンピオンシップがかかった重要な局面において、エボリューションⅥは追いすがるWRカーのライバルたちを突き放すことに成功。これでトミ・マキネンは、歴史に残る前人未到の4年連続ドライバーズチャンピオンに輝いた。
ランサーGSRエボリューションⅥ主要諸元
●全長×全幅×全高:4350×1770×1415mm
●ホイールベース:2510mm
●車両重量:1260kg
●エンジン:直4DOHC16バルブ+インタークーラーターボ
●排気量:1997cc
●最高出力:280ps/6500rpm
●最大トルク:38.0kgm/3000rpm
●トランスミッション:5速MT
●駆動方式:フルタイム4WD
●10.15モード燃費:10.2km/L
●車両価格(当時):324.8万円


