明らかに不利なグループA規定でWRカーに勝負を挑んだエボ6・5
実質の速さとは関係ない部分だが、WRC三菱ワークスラリーカー(グループA仕様車)のディテールを再現するスペシャルカラーリングパッケージをGSRにオプション設定したこともインパクトがあった。当時のラリーカーは市販車がベースとなっていることもあり、ファンの間で「WRCレプリカ」と呼ばれる流行があった。それらのクルマのオーナーは、モータースポーツ競技に参加するわけではなく、カラーリングやパーツ類などをWRCに実際出ているマシンと同じにすることによって、雰囲気を楽しんでいた。「トミー・マキネンエディション」は、そうした〝レプリカ〞としてメーカーが仕上げたことでもインパクトがあった。
インテリアは、レッドステッチのMOMO社製本革巻きステアリングホイール、シフトノブシフトブーツを採用して、スポーティさを演出。インパネに目を移すとブラック盤面にオレンジの文字と目盛の専用カラーメーターを採用がわかる。さらにシート生地をレッドファブリック/エクセーヌとし、〝トミー・マキネン〞ロゴ刺繍を追加したレカロ社製バケットシートをGSRに採用した。機能パーツでは、WRC三菱ワークスラリーカー(グループA仕様車)と同デザインの17インチアルミホイールを採用した(GSRは標準装備、RSにはメーカーオプション設定)。

2001年の開幕戦であるモンテカルロラリーを制したT・マキネン。この年は善戦したが、ドライバーズランキングは3位に終わった。
モータースポーツでの活躍だが、WRCでは、改造範囲の大きいWRカー規則によって劇的な進化を遂げるライバルたちに対して、さまざまな制約に縛られたグループAマシンの不利なことは、次第に明らかになりつつあった。しかし、三菱自動車はあくまで市販のランエボをベースにしたグループAラリーカーにこだわった。チャンピオンの名を冠した「トミー・マキネンエディション」を新たなベースモデルとして、ランサーエボリューションはラリー・フィンランドに投入されたが、この時はフロントサスペンション回りに改良を集中し、クロスメンバーが軽量・高剛性化された。また、サスペンションジオメトリー変更、空力面での見直しもに行われた。
グループA規定にこだわったため、サスペンションセッティングにも苦しめられたシーズンではあったが、終盤のラリー・オーストラリアでは強化型のアクティブデフとプログラム改良が実を結び勝利している。だが、その翌日、ターボが規則に沿ってないとの理由から、この勝利は幻と消えてしまった。これは規則解釈の誤解からくるものであったが、結果としてはノーポイトとなった。こうして、5年連続ドライバーズタイトル獲得は叶わず、2000年シーズンは終了した。

2001年のサファリラリー。アニマルバーで武装されたランエボが爆走する。WRカーを撃破してこの年3勝目を挙げた。
それでも、2001年シーズンに向け改良が施され、グループA最終進化バージョンが準備された。その外観を見る限りは2000年型を踏襲したように見えるが、WRカーに対するウイークポイントを着実に補うものだった。リアサスペンションのストロークは30mm延長され、マシンのハンドリング性能は大きく向上した。また、動力面ではフライホイールの軽量化によってエンジンのレスポンスも大きく改善されていたのが一般的だ。
この最後のグループAマシン(実際にはFIAの公認を受けた半WRカーとなる)は、2001年の開幕戦モンテカルロにおける3年連続勝利に始まり、ポルトガル、サファリと3勝を挙げ、WRカーを凌ぐスピードを見せつけた。1993年にデビュー以来、進化を続けてきたグループAランサーエボによるWRC勝利数は、通算25勝を記録した。この後、三菱は、WRカーレギュレーションに則ったランサーWRCの開発に着手することになる。
ランサーGSRエボリューションⅥ「トミーマキネンエディション』主要諸元
●全長×全幅×全高:4350×1770×1405mm
●ホイールベース:2510mm
●車両重量:1360kg
●エンジン:直4DOHC16バルブ+インタークーラーターボ
●排気量:1997cc
●最高出力:280ps/6500rpm
●最大トルク:38.0kgm/2750rpm
●トランスミッション:5速MT
●駆動方式:フルタイム4WD
●10.15モード燃費:9.7km/L
●車両価格(当時):327.8万円

