ランサーセディアがベースとなり第3世代となったエボリューションⅦ

エンジンの熟成とともにエンジンルームのレイアウトも見直し、重量バランスや冷却性能をアップしているところも見逃せない。
2000年にランサーがモデルチェンジし、ランサーセディアになったが、これをベースとしたのがランサーエボリューションVIIで、ここからがランエボ第三世代と呼ばれている。発売は2001年1月だ。特筆されるのは、フルタイム4WD機構の要となるセンターLSDが、それまでのビスカスカップリング式LSDではなく、電子制御LSDとなったこと。これはACD(アクティブ・センター・デファレンシャル)と呼ばれるメカニズムで、モータースポーツ走行でも有効なデバイスとなった。それには後ほど触れる。まずパワーユニットから順に見ていこう。
エボリューションVIIでは、従来の4G63型+インタークーラーターボを改良し、当時このクラス最強の206kW(280ps)/6500rpmと383Nm(39.0kgm)/3500rpmを実現。中速域中心に出力向上を図った。具体的な改良点は、ターボチャージャーの改良、インタークーラーの大型化、吸気系の見直し、3ノズルインタークーラースプレー(手動切替機構付)の採用などだ。エンジン内部では、ロッカーカバーの材質をアルミからマグネシウムに変更し、カムシャフトを中空化するなど、エンジン上部の軽量化で重心を下げた。
排気系にも手が入れられている。フロントパイプの接合部に球面継手を採用するとともに排気管のストレート化を図り、背圧を低減させた。また、メインマフラー内に背圧可変式バルブを設け、低回転域での静粛性の向上と高回転域での背圧低減を両立させた。さらに、排気管すべてのパイプをステンレス化することにより耐腐食性、強度を向上させている。

リアビューは迎角4段調整式のウイングが目立つ。最適な空力特性を確保するための装備。エボⅦの存在感を主張するパーツだ。
駆動系を見ていくとトランスミッションは、従来から採用の5速MTをエンジントルクの向上にともない改良している。具体的には一部ギアに高強度材を採用するとともにギアレシオも変更している。1速ギア比をローギアード化することにより発進性能を向上させ、5速ギア比をハイギアード化することにより高速巡航時の快適性、燃費性能を向上させた。また、エンジントルクの向上にともないクラッチカバーの押し付け荷重を上げるとともに、クラッチディスクとフライホイール径も大型化。これにより駆動力伝達性能と耐久性の向上を実現した。
エボリューションVIIの最大の変更点でありフルタイム4WDシステムのエポックメイキングとなったのがACDの採用だろう。これはセンターデフの差動制限を従来のビスカスカップリングLSDに替えて電子制御式油圧多板クラッチ機構とすることにより、走行状況に応じて前後ロック率配分を変えるものだ。具体的には50:50に設定されたセンターデフの前後輪差動制限力をフリー状態から直結状態までオートマチックでコントロールできる。モードの切り替えができるのも特徴だ。ターマック(舗装路)、グラベル(未舗装路)、スノー(雪道・アイスバーン)の3モード切替スイッチにより路面状況に応じた制御を最適化する。このシステムはGSRには標準装備され、RSはメーカーオプションとなった。

ACDユニット。ロック率を100%からフリーまで制御。画像の左奥に見える部分に多板クラッチを儲けている。これで前後ロック率を制御している。
マニア受けする部分では、サイドブレーキを引くと、センターデフがフリーになる機構が備えられていたことが挙げられる。これは、確実にリアタイヤだけロックさせるシステムで、モータースポーツ全般、特にジムカーナに参加するドライバーにはありがたい装備だった。当初、ACDについては、モータースポーツに参加しているドライバーの間でも賛否が分かれたが、特に低ミュー路を走る場合にはタイムがいいという事実の前に誰も否定できなかった。これはランサーエボリューションがWRCに参加し続け、勝つことに執念を燃やした末に開発されたデバイスだからこそ、市販車に生かされたといえる。
もうひとつの電子制御系デバイスであるAYCは、GSRに引き続き採用されていた。ACDとAYCをコンピューターで統合制御させたのもトピックだった。三菱自動車は、「コーナーの立ち上がり加速時にはACDが主に駆動性能を、AYCが主に旋回性能をサポートし、ACDとAYCそれぞれの単独制御に比べ、優れた加速性能や操縦安定性を実現した」と謳った。
RSはオプションでAYCが装着できた。サスペンションは引き続きフロントにマクファーソンストラット、リアにマルチリンクが採用されたが、エボリューションVIIでは、アライメントの最適化とホイールストロークの増大を図り、コーナリング時の初期応答性から限界性能に至るまで、旋回性能をバランスよく向上させるなどのリファインが行われた。
ボディも強化されている。まず操縦性に大きな影響を及ぼす部分としては、サスペンション取付部およびボディフレーム結合部の補強だ。20カ所に及ぶ専用リーンフォースメントの追加、溶接点の追加、ストラットタワーバーの採用などにより、従来車に対して1.5倍の曲げ剛性を確保した。さらに軽量化に関しては、ボンネットフードやフロントフェンダーなど大型部材を標準車の鋼板からアルミに転換するとともに、部品の構造や形状の合理化により、重量増を極力抑えている。

