2011年11月、ニュル24時間レースでクラス優勝を果たした「WRX STI tS」の走りの思想を盛り込んだ究極のロードゴーイングカー「STI S206」が300台限定で登場した。専用チューンのエンジン、厳選されたパーツを組み込みSTIが仕上げたコンプリートカーは、ベースモデルよりも166万9500円も高価だったが、発売と同時に完売となっている。はたして「STI S206」はどんなモデルだったのか。ここでは登場間もなく行われた国内試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2012年2月号より)
S204以来、セダンベースは6年ぶり
S206は、WRX STIの4ドアをベースにSTIがチューンを手がけた、いわば最高峰のワークスコンプリートカーと呼べる1台だ。2004年のS203、05年のS204、10年のR205と、過去WRX STIベースのSTI特別仕様車は登場してきたが、セダンベースは6年ぶりとなる。
ベースモデルからの変更は多岐にわたる。誌面の関係でとてもすべては網羅できないが、専用チューンされたECUや専用ツインスクロールターボ、専用バランスドエンジンにより滑らかに回り、トルクバンドもノーマルモデルよりも広く厚い特性を持つ。足まわりはSTIチューンのビルシュタインサスペンションやS206専用19インチBBS鍛造アルミホイールに245/35ZR19のミシュラン・パイロットスーパースポーツを組み合わせる。またブレーキシステムはドリルドローターのブレンボを奢る。
「S206」は限定300台のみが生産されるが、そのうち100台はニュル24時間レースでのクラス優勝を記念した「S206 NBRチャレンジパッケージ」となる。「NBRチャレンジパッケージは、専用装備として、カーボンルーフやカーボン製リアスポイラーを装着するなど、とにかく一切の妥協を排除した「究極のWRX STI」と呼べるマシンに仕上がっている。

ガッチリとした強いボディ剛性という印象ではなく、しなやかで強靱な味わいを持つ。
質感が高く大人の雰囲気でまとめ上げられている
今回試乗したのは、そのS206 NBRチャレンジパッケージ車。NBRとはニュルブルクリンクの略で、ニュルブルクリンク24時間レースへの挑戦とその思想を織り込んだところから名づけられている。
運転席に座る。ホールド性の高い専用レカロシートや赤いシートベルトなどで高揚感を高めるが、全体的に非常に質感が高く、大人の雰囲気でまとめ上げられているところが好印象だ。
STIロゴの入った赤いスタートスイッチを押して始動。回転計の針が右に振れエンジンに火が入るが、アイドリングの音にレーシーさはなく、ここでもジェントルなイメージとなる。
試乗時は写真のとおりヘビーウエットの路面状況。320ps/451Nmのスペックを誇るスペシャルモデルだけに恐る恐るアクセルペダルを踏み込んでいくが、そんな心配は杞憂に終わる。
とにかく、走りやすい。アクセルペダルを踏めば、乾いたエンジン音とともに淀みなくクルマを前に進め、ブレーキは暖まると踏みしろに合わせて正確にクルマを制動、荷重のコントロールも自在だ。ドライバーの運転が上手くなったかのようなクルマとの一体感。ドライビングに必要な、自分の各部センサーがすべて敏感になったかのような気持ち良さ、と言えば伝わるだろうか。
そして、どんなにうねった路面でも、どんなに凹凸のあるアスファルトの上でも、常に接地感が変わることなく安定したコーナリングを可能としているところが秀逸だ。タイヤもウエットグリップが抜群で、そこから先の滑り出しもわかりやすく、限界を越えてからのコントロールがしやすかった。ドイツ系スポーツモデルのように、ガッチリとした強いボディ剛性という印象ではなく、高い剛性の上で捻るところは捻る、というしなやかで強靱な味わいを持つ。
今回は、ワインディング路のみの試乗だったが、この足のセッティングならば路面段差の続く都市高速や街中の走行でもフリフリせずに、まろやかにギャップをいなすはずだ。またトルクがぶ厚いため、高いギアに入れっぱなしのズボラな運転にも対応する。
2車種とも台数限定となり、S206は200台、NBRチャレンジパッケージは100台の計300台の発売。妥協を廃した作り込みのため、車両価格はS206が540万7500円、NBRチャレンジパッケージは593万2500円となるが、試乗会のあった12/8にはすでに完売となっていた。
こだわりを余すことなく投入したS206。走りの楽しさとは何なのか。暴れ馬を無理矢理抑えつけるよりも、利口な馬を自分の思い通りに自在に操るということ。STIの考える究極のスポーツカー、そのひとつの回答がS206なのだ。(文:Motor Magazine編集部)

専用チューンのECUや専用ボールベアリングターボなどにより、2L水平対向エンジンは320ps/431Nmを発生。
スバル STI S206 主要諸元
●全長×全幅×全高:4605×1795×1465mm
●ホイールベース:2625mm
●車両重量:1470kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:235kW(320ps)/6400rpm
●最大トルク:431Nm(44.0kgm)/3200-4400rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:4WD
●車両価格(税込):540万7500円(2011年当時)

