タイトル写真はスバルのEJ20型エンジン。
デメリットを打ち消すほどの強い個性
日本で量産エンジンに水平対向レイアウトを採用しているクルマは非常に少ない。1960年代には、トヨタ スポーツ800や初代パブリカが水平対向2気筒エンジンを積んでいた。しかし、今はスバルの乗用車だけだ。海外に目を向けてもポルシェだけとなっている。
ピストンが横に打ち合うように動く水平対向エンジンは、コンパクトな設計が可能だ。直列4気筒より全長と全高を低く抑えることができ、重心も低くできる。全高の低いエンジンは安全性の点でも有利だ。また、対向位置にあるシリンダー配置はV型6気筒などのようにバランスが良く、振動も少ない。ビッグボアのオーバースクエア設計にすれば高回転も得意となる。
ただし、生産コストがかさむのが難点だ。直列にレイアウトするエンジンよりカムシャフトなどの数は多くなる。構造上、横幅の広いエンジンになりがちだし、トランスミッションも専用設計だ。それだけではなくシャシも専用設計になる。
メンテナンス性も直列エンジンより悪い。ちょっと前までは、点火プラグの交換に難儀したことも思い出される。
また、排出ガス対策と燃費でもデメリットが目立つ。ビッグボア設計のためエンジンの幅が大きいから、吸排気系のレイアウトに工夫が必要なのである。しかも熱が逃げにくいから冷却損失も大きい。だから燃費が悪かったし、排出ガス浄化性能の向上にも苦労させられた。
スバルもポルシェも、好んでビッグボアの水平対向エンジンを設計し、高回転まで気持ち良く回る。だが、排出ガスと燃費対策のため、スバルはFB系エンジンで燃焼室の表面積を小さくできるロングストローク設計とした。
両社が苦労の多い水平対向エンジンにこだわるのは、他のエンジンにはない強い個性と独特のパワーフィールがあり、これがメーカーのアイデンティティになっているからだ。エンジン音や排気音までも魅力と感じるのだ。(文:片岡英明)