以前に連載した「昭和の名車」では、紹介しきれなかったクルマはまだ数多くある。そこで、1960年代以降の隠れた名車を順次紹介していこう。今回は「ダイハツ コンパーノ ベルリーナ」だ。

ダイハツ コンパーノベルリーナ(F40型):昭和39年(1964年)2月発売

画像: ここで掲載している写真は、すべて1964年2月に発表された「ベルリーナ1000」となる。

ここで掲載している写真は、すべて1964年2月に発表された「ベルリーナ1000」となる。

三輪/四輪商用車メーカーとして基盤を築いたダイハツは、1963(昭和38年)年5月、コンパーノワゴンで乗用車市場への参入を果たす。とはいえ乗用車=贅沢品だった時代、主力を商用バンに置いたのは、ミゼット(オート三輪)やベスタ(小型トラック)で成功を収めてきたダイハツらしい戦略だった。

デザインをカロッツェリア・ヴィニヤーレに依頼したコンパーノ バン/ワゴンは、ミニアメ車的デザインの多かった国産車の中では異色の存在で、派手さはないもののイタリアンルックでまとめたディテールの美しさは群を抜いていた。乗用車市場への本格参入を目指すダイハツは、これをベースに自社デザイナーの手でボディ後半部をノッチバックセダンに改良した「コンパーノ ベルリーナ」を開発。1963年の第10回東京モーターショーでワールドプレミアされ、ベルリーナ デラックス(以下、DX)は、翌年2月発売予定が公表された。

フレームワークは、すでにモノコックが主流だった時代に、実績のあるラダーフレームを採用した。ベースがバンだったこともあるが、軽量化が重要な要素となる小型車としては珍しい選択と言えた。その前部に直4エンジンを置き、4速MTを介して後輪を駆動するFRという駆動方式も、前:ダブルウイッシュボーン/トーションバー、後:リーフリジッドのサスペンションも、当時としてもごく標準的なものだった。

画像: 写真のコラムシフトが標準だったが、オプションでフロアシフトも設定されていた。

写真のコラムシフトが標準だったが、オプションでフロアシフトも設定されていた。

そんな中、注目されたのは、国産車で初めてフルシンクロの4速MTを標準装備したことだ。時流に合わせてコラムシフトが基本だが、アルミ製ミッションハウジングの後部にダイレクトシフト用の穴を設けて、オプションのフロアシフトに容易に変更できるようになっていた。

エンジンは41psを発生する797ccのOHV。6000rpmまで回せる高速型である一方、1800~5200rpmの範囲で5.5kgm以上のトルクを発生する扱いやすさも備えていた。最高速度は110km/h(カタログ値)と公称したが、加速性能は755kgの車重がネックとなり、モーターマガジン誌の実測テストでは、雨天でもあったが0→400m加速は24.5秒、0→80km/h加速は15.5秒にとどまった。

さすがに回転計は付かないが、ステンレス製3スポークステアリング、バケットシート、フロアシフト(オプション)などイタリアンコンパクトの流れを汲むスポーティな内装装備を持つだけに、それに見合った活発な走りが期待された面もあるだろう。

画像: 958ccに排気量アップしたエンジンに2バレルシングルキャブで55psを発生している。

958ccに排気量アップしたエンジンに2バレルシングルキャブで55psを発生している。

この期待に応えるため、1964年2月に排気量を958ccに拡大し圧縮比9.5とソレックスSUツインキャブで65psに強化したエンジンを積む「スパイダー」を追加。1965年4月には新設の4ドア ベルリーナに、圧縮比7.8と2バレルキャブ単装で55psにデチューンした「1000」を追加。1965年11月にはベルリーナ2ドアにスパイダー用エンジンを搭載した「1000GT」を追加するなど、バリエーションを拡大。1967年3月には国産初のメカニカルインジェクションを採用したシリーズ最強モデルの「1000GTインジェクションを投入している。

800~1000ccクラス乗用車として意欲的な展開に打って出たコンパーノ ベルリーナだが、ラダーフレームなど基本設計が古すぎた。さらにリッターカー市場は1966年に登場したカローラとサニーが席巻していく時代。そこにダイハツが付け込む余地はなく、コンパーノ ベルリーナはモデルチェンジを迎えることなく、1969年4月、2代目トヨタ パブリカの姉妹車「コンソルテ ベルリーナ」にバトンタッチする。コンソルテが2ドアだったのでコンパーノは4ドアのみ延命するが、これも1969年に生産を終了。コンパーノのブランドは消滅した。

画像: カロッツェリア・ヴィニヤーレのデザインを基にボディ後半を独自にデザインして4ドアセダン化した。

カロッツェリア・ヴィニヤーレのデザインを基にボディ後半を独自にデザインして4ドアセダン化した。

昭和の名車のバックナンバー

ダイハツ コンパーノ ベルリーナ デラックス 主要諸元

●全長×全幅×全高:3800×1445×1410mm
●ホイールベース:2220mm
●重量:755kg
●エンジン型式・種類:FC型・直4 OHV
●排気量:797cc
●最高出力:41ps/5000rpm
●最大トルク:6.5kgm/3600rpm
●トランスミッション:4速コラムMT
●タイヤサイズ:5.20-12 2P
●価格:57万8000円(スタンダードは49万8000円)

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