1997年に世界初の「量産型ハイブリッド自動車」として誕生したトヨタ プリウス。あれから22年の時が流れ、今やこのシステムを搭載した多くのモデルが誕生している。しかし、ハイブリッドのベースとなるエンジンは、どれもガソリン仕様ばかりだ。ガソリンエンジンより、燃費効率の優れたディーゼルエンジンをベースとしたハイブリッドモデルはなぜ普及しないのか。その理由を探ってみた。

商用車ではディーゼルハイブリッドが一般的

画像: AIを活用した世界初のハイブリッドシステムを搭載する「日野プロフィア ハイブリッド」は、位置情報から走行ルートの100km先までの勾配を先読みし、モーター動力、エンジン+モーター動力などの最適な走行シナリオを作成する。

AIを活用した世界初のハイブリッドシステムを搭載する「日野プロフィア ハイブリッド」は、位置情報から走行ルートの100km先までの勾配を先読みし、モーター動力、エンジン+モーター動力などの最適な走行シナリオを作成する。

最近、ハイブリッドシステムを搭載したコンビニや宅配の配送トラックをよく見かける。1991年に大型バスはディーゼルハイブリッド仕様を路線用として導入するなど、大型トラックや大型バスなどの商用車は、かなり前からディーゼルハイブリッド仕様をラインアップしている。

このように商用車のディーゼルハイブリッドはすでに一般的なのだが、乗用車のディーゼルハイブリッドは普及しているとは言えない。しかし、乗用車の最新クリーンディーゼルモデルはトルクフルな走りと優れた燃費性能、税制面の優遇などで年々人気が高まっているのだが、車両価格はガソリン車と比較すると若干高いプライス設定になっている。これはクリーンディーゼルの構成システムが複雑なため、コストがかかってしまうからだ。これが乗用車のディーゼルハイブリッドが普及しない理由でもある。

クリーンディーゼルエンジンの噴射システムは、高圧かつ最適な多段噴射が可能な高価なコモンレールタイプや燃料を噴射するインジェクターも高価なピエゾ式を使うことが多い。さらにパワーアップとエンジンフィールを高めるために可変ジオメトリーターボを装着し、かつNOx(窒素酸化物)の発生を抑えるためEGR(排出ガス再循環装置)にクーラーまで搭載する。そして排出ガスをクリーンにするためにDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)と尿素SCR(選択還元)システムを組み合わせるのが、今のディーゼルエンジンの主流となっている。

このように複雑で高価なディーゼルエンジンに加え、コストが高いハイブリットシステムを組み合わせると、必然的に車両価格が高額になってしまう。さらにドライブフィールや騒音などの総合性能と販売価格を考えると、やはり乗用車のディーゼルハイブリッドは実現が難しいという結論になる。

ただし、プレミアムブランドにおいては、車両価格が高くなってもクリーンで優れた走行性能と燃費をアピールすることができれば商品化できる。その代表例が「第46回東京モーターショー2019」で発表されたメルセデス・ベンツのE350deだ。

ディーゼルプラグインハイブリッド乗用車「 メルセデス・ベンツ E350de」

画像: E350deは2L直4ディーゼルターボエンジン(194ps/400Nm)とモーター(122ps/440Nm)を組み合わせたシステム総合出力は306ps/700Nmを発生する。

E350deは2L直4ディーゼルターボエンジン(194ps/400Nm)とモーター(122ps/440Nm)を組み合わせたシステム総合出力は306ps/700Nmを発生する。

メルセデスは電気自動車のEQブランド「VISION EQS」と「smart EQ fortwo」をアジアで初公開したため、ディーゼルプラグインハイブリッドのE350deに気づく人は少なかったようだが、このモデルは日本初のディーゼルプラグインハイブリッドの第一号となる。この2L直噴ディーゼルターボエンジン(OM654型)には、第4世代コモンレールシステムに可変ジオメトリーターボとDPF、尿素SCR触媒コンバーターを統合したsDPFを採用する。これだけでもコストがかかるのに、最新世代の大容量リチウムイオンバッテリーを使ったハイブリッドシステムと外部充電機構(プラグイン)までも搭載するのだ。

「E350de アバンギャルド スポーツ」の車両価格は875万円。同じ2Lディーゼルを搭載する「E220d アバンギャルド スポーツ」は757万円で、その差は118万円。そしてガソリンハイブリッドの「E350e アバンギャルド スポーツ」は852万円とE350deの方が23万円高い。しかし、モーターとリチウムイオンバッテリーが搭載され、さらにプラグインであることを考えるとE350de アバンギャルド スポーツは決して高く感じないが、これはプレミアムブランドだから実用化できたのも事実だ。

エンジンルームが小さく、高価格にできないコンパクトカーは実現しにくい

画像: 世界初のガソリンの圧縮着火を実用化した新世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」を搭載するマツダ3。

世界初のガソリンの圧縮着火を実用化した新世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」を搭載するマツダ3。

その他の要素として乗用車のディーゼルハイブリッドが普及しない理由は、エンジンルームのスペースにある。最近のクリーンディーゼル搭載車のエンジンルームを見るとターボや排出ガスの後処理装置などの補機類で埋め尽くされている。もはやハイブリッドシステムを搭載するスペースなどはほとんどない。

前述のメルセデス・ベンツ E350deが実現できたのは、大きなボディサイズとFRレイアウトのため、比較的エンジンルームのスペースに余裕があったからだ。もしこれがボディサイズの小さいFFのコンパクトカーで、しかも高い車両価格を設定できないとなれば、商品として成立するのは難しいだろう。

現在コンパクトカーで、この状況に似ているのがマツダ3の「スカイアクティブXエンジン」だろう。このエンジンは開発に高額なコストがかかっている。SPCCI(火花点火制御圧縮着火)に加え、燃焼領域を広くするためにスーパーチャージャーを装着し、ISG(ベルト式インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を使ったマイルドハイブリッドシステム(バッテリーはリチウムイオン)を組み合わせている。そのためスカイアクティブXエンジン搭載車のスタート価格は約320万円とスカイアクティブGの2Lエンジン搭載車のスタート価格約252万円と比べると70万円近く高額になっている。このマツダ3のスカイアクティブXが市場に受け入れられれば、今後コンパクトカーにディーゼルハイブリッドモデルが登場する可能性はあるかもしれない。(文:丸山 誠)

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