2006年、フォルクスワーゲンは着々とラインアップを拡大し、その後の躍進へとつなげている。ここでは、ゴルフに続くモデルとして、ポロ、ニュービートル、トゥアレグの成功と2006年モデルの進化ぶりを振り返ってみよう。当時フォルクスワーゲンはどこへ向かおうとしていたのか。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年3月号より、タイトル写真は左から、トゥアレグV8、ポロ4ドア、ニュービートル カブリオレLZ)

フォルクスワーゲンはもはやゴルフだけのブランドではない

改めて言うまでもないことだが、フォルクスワーゲンにとってもっとも大事なモデルは、ゴルフである。クラシック・ビートル以後のフォルクスワーゲンの礎を築いたゴルフは、登場以来30年以上にも渡って主力の座にあり続け、単にフォルクスワーゲンのというだけでなく、世界の小型車のベンチマークのひとつとして今も存在し続けている。販売の面で見ても、ここ日本市場では近年に至っても依然、フォルクスワーゲン全体のざっと半分をゴルフが占めているのが現状だ。

しかし、フォルクスワーゲンはゴルフのブランドだという認識がもはや過去のものだというのも、これまた確かである。販売実績のうちゴルフが占める割合が半分をやや下回る程度だということは、逆に言えば半分以上はゴルフ以外のモデルによって占められているということになる。

たとえば今回取り上げるトゥアレグ、ポロ、ニュービートルの3台の販売台数を合計すれば、ゴルフの台数とそれほど変わらないレベルになる。もちろん、それでもまだゴルフが断トツとは言え、それだけではナンバー1インポーターとはなり得ない。ラインアップの充実が、フォルクスワーゲンの躍進には欠かせないものとなっているのだ。

そんな今のフォルクスワーゲンにとって、新しいユーザー層を切り拓くのに大きく貢献したと思われるのがトゥアレグである。この手のいわゆるプレミアムSUVの中ではリーズナブルな価格設定だとは言っても、廉価仕様のV6でも500万円という価格は、それまでの同ブランドのイメージからすると、かなりの高価格と映る。

しかし結果的にトゥアレグは登場するや高い人気を獲得して、瞬く間に街にあふれることとなった。しかも、フォルクスワーゲン史上、最高価格車として昨年登場した限定のW12スポーツは、V6のちょうど2倍にもなる価格にもかかわらず、あっと言う間に完売してしまったのである。

これだけのトゥアレグの人気の背景には、かつてゴルフ2やゴルフ3を愛好した人達が、それなりに年齢を重ねて、上級モデルに移行したいというニーズにうまく応えるカタチとなったということが挙げられるはずだ。従来、ゴルフをステップボードに他のブランドへと流れてしまっていたユーザーを、このトゥアレグは見事にすくい上げて見せた。あるいは、いったん他へと流れたユーザーを呼び戻すことも叶ったかもしれない。それまでは、もちろんパサートはあったにせよ、ゴルフのような若々しさを持った上級モデルは存在しなかった。トゥアレグはようやく、そんなニーズに応える内容を引っ提げて登場したというわけだ。

画像: 日本においてはフォルクスワーゲンの最上級モデルとなるトゥアレグ。ラインナップは3.2LのV6と4.2LのV8を用意するほか、2005年には限定で6L W12を搭載するW12スポーツも販売された。2003年9月のデビュー以来、変更されたのは3.2Lエンジンやステアリング系など細部のみで変わらぬ姿を保っている。スロバキア・ブラティスラバ工場製。2006年最新仕様のフォルクスワーゲン。

日本においてはフォルクスワーゲンの最上級モデルとなるトゥアレグ。ラインナップは3.2LのV6と4.2LのV8を用意するほか、2005年には限定で6L W12を搭載するW12スポーツも販売された。2003年9月のデビュー以来、変更されたのは3.2Lエンジンやステアリング系など細部のみで変わらぬ姿を保っている。スロバキア・ブラティスラバ工場製。2006年最新仕様のフォルクスワーゲン。

トゥアレグが創り出した新たなブランドイメージ

そんなトゥアレグの魅力とは一体何か。一例を挙げるなら、落ち着いた、けれど存在感十分なルックスという要素は相当に大きいように思える。この手のSUVたちは今や百花繚乱といった趣で、しかもそれぞれ自己主張が非常に強い。そんな中で見るとなおのこと、トゥアレグのデザインは非常にクリーンで、理知的にすら見える。登場当初のそんなイメージは今も不変。ヘンに仰々しいところがないおかげで都会からアウトドアまで幅広いシチュエーションにきれいに溶け込み、またユーザーを選ぶこともない。また大柄に見えてボディの四隅は把握しやすく、取り回しだって想像する以上に良いのだ。こういう懐の深さ、あるいはユーザーへの優しさには、ゴルフと通ずるものを感じる……と言ったら大げさか。

走りっぷりにしてもそう。トゥアレグの躾けはきわめて穏やかなものだ。ステアリングの応答はシャープではないが正確そのもので、演出めいたところがなく余計な神経を遣わされることもない。それでいて相当攻め込んでも破綻を来すことなく、クルマの大きさ重さを忘れさせてくれる。エンジン特性も、V6、V8ともパワフルで、乾いたサウンドも心地よいが、パワーの出方自体がとても品が良く、つまりはすべてがリニアな印象なのである。

ちなみに人気が高いのは、やはりV6の方だという。他社のいわゆるプレミアムSUVと比較しても、圧倒的に高いコストパフォーマンスもその要因に違いないのだが、やはりもっとも大きいのは、その走りっぷりに確かな魅力があるからだ。エンジンはトルクフルとは言えないものの十分な余裕を備えてトップエンドまで軽快に回り、コイル式のサスペンションは、より軽快感に満ちたフットワークや乗り心地をもたらす。我慢の選択ではなく、積極的に選びたくなる良さが、そこにはあるというわけだ。

ネックがあるとすれば、走っていればそれを忘れさせるとは言え、実際にはやはり厳然として重いというところだろうか。その重さは燃費性能にも直結しており、V8モデルの場合は特に、マルチインフォメーションディスプレイに瞬間燃費を表示しながら走っていると、右足がどんどん萎縮してくる。経済的じゃないというのはもちろんだが、今の世の中では、何だかとても悪いこと、時代に合わないカッコ悪いことをしているんじゃないかという気分になってしまうのだ。

もちろん、フォルクスワーゲンだってそんな市場のムードには気付いているはず。だからこその先般のハイブリッド開発の発表があったのだろう。ディーゼルという選択肢はすでに用意されていたが、日本や北米はまだそれを受け入れる態勢にはない。ハイブリッドの実用化には、まだ最低でも2年近くはかかると思われるが、それまでに世の中のムードがどう変わっていくかは、トゥアレグの今後にも大きく影響を及ぼすはずである。

画像: ポロはBセグメント輸入車の代表的モデル。昨年2005年のフェイスリフトとGTIの追加。ちなみに東京モーターショーで世界初公開されたGTIは、発売開始も日本が世界に先んじた。この辺りも気合いの入り具合を示していると言えそうだ。ポロの試乗車は1.4Lエンジンを搭載する「ポロ4ドア」。

ポロはBセグメント輸入車の代表的モデル。昨年2005年のフェイスリフトとGTIの追加。ちなみに東京モーターショーで世界初公開されたGTIは、発売開始も日本が世界に先んじた。この辺りも気合いの入り具合を示していると言えそうだ。ポロの試乗車は1.4Lエンジンを搭載する「ポロ4ドア」。

どのモデルにも共通した味わいが安心を生む

これまでのフォルクスワーゲンになかった価値を引っ提げて登場したトゥアレグに対して、このブランドが培ってきたイメージに忠実な存在と言えるのがポロだ。上級移行したゴルフの従来のポジションを引き継ぐという意味では、あるいは忠実どころかそのど真ん中にいるとすら言ってもいい。

このポロ、昨年マイナーチェンジを受けて、特にルックス面では大きくその印象を変えている。丸型4灯式ヘッドライトがちょっととぼけた愛らしい雰囲気を出していた先代に対して、涙目形状のヘッドライトと逆台形のワッペングリルを得た新しい顔は、より精悍な雰囲気。これは凝ったテールランプともども、新世代のフォルクスワーゲンに共通のデザインキューとなるわけだが、正直言ってまだ個人的には、先代の方が良かったな……という思いが強い。

しかし昨年2005年末に出たGTIではだいぶこなれて悪くないなと感じられたから、ようやく慣れてきた感のあるアウディのシングルフレームグリルなどと同じく、時間が解決する問題なのかもしれない。

インテリアの意匠は、ステアリングホイールのデザインなど一部が変更された程度で、相変わらず精度感は抜群に高い。今回の試乗車はレザーパッケージが装着されていたが、そのなかなか良さそうな手触りのレザーシートに違和感がないのは、その品質感の賜物だろう。ただし、レザーではないノーマルの仕様では、ひとつ気になる部分もある。それはステアリングホイール。

ウレタンリムという意味では先代と一緒なのに、新型のそれはデザインのせいか表面処理のせいか、これが何とも安っぽいのだ。見映えどうこうという話に留まらず、毎日絶対に触れる部分だけに、印象を下げてしまうのではと危惧してしまうところである。

一方で定評の走りには、さらに磨きがかけられた。中でも、先代オーナーがすぐに気付くに違いないのが乗り心地。これまでよりサスペンションが俄然しなやかな設定となり、特に日常域での快適性を引き上げているのだ。実際のところ従来モデルだって、確かに硬質な部類とはいえ乗り心地の悪いクルマだったわけではないのだが。

そうなると危惧されるのがハンドリングに対する影響だが、こちらも問題ナシと言っていい。反応はほんの気持ち程度マイルドになった感があるものの、トーションビームアクスルとして最上級のしなやかなリアのグリップがもたらす、安定したアンダーステアを基本とした粘り腰は変わらない。

ゴルフの骨太感と比較すると線の細い感じはあるのだが、ボディの絶対的な剛性感自体が低いわけではなく、より軽快な味付けに仕上がっている。変わらないと言えば、動力性能の面でもほとんど変化はない。1160kgの車重に対して75psのパワーはいかにも物足りないが、実用域でしっかりトルクを発生させる特性のおかげで、普段は十分に小気味良く走らせることができる。

とは言え、さすがにアップダウンの続く場面ではモアパワーを求めたくなるのも事実であり、本当ならばヨーロッパでは設定のある最高出力100psの1.4L辺りが用意されればいいのだが。シャシのキャパシティは、それでも何も問題はないはず。何しろベーシックなポロのちょうど2倍となる最高出力150psを発生する1.8Lターボエンジンを積むGTIでも、フットワークに一切破綻は見られないのだから。

画像: 1999年の日本導入以来、人気を保ち続けているニュービートル。累計販売台数は6万台を超え、2001年以降はアメリカに次ぐ世界2位の販売実績を残している。現行モデルで本来カブリオレ用のハーベストムーンベージュ、アクエリアスブルー、メローイエローを全車で選択できるが、実はコレも世界2位の大市場である日本だけの特権だ。ニュービートルの試乗車はニュービートルカブリオレLZ。

1999年の日本導入以来、人気を保ち続けているニュービートル。累計販売台数は6万台を超え、2001年以降はアメリカに次ぐ世界2位の販売実績を残している。現行モデルで本来カブリオレ用のハーベストムーンベージュ、アクエリアスブルー、メローイエローを全車で選択できるが、実はコレも世界2位の大市場である日本だけの特権だ。ニュービートルの試乗車はニュービートルカブリオレLZ。

筋の通った商品企画と期待を超える展開ぶり

ニュービートルは、あるいはトゥアレグ以上に旧来のフォルクスワーゲンらしさの薄いモデルと言えるかもしれない。何しろゴルフや、それこそオリジナル・ビートルのように機能性や走りを突き詰めた結果として生まれたのではなく、それどころかファッション性こそを第一義としたモデルなのだから。これらのモデルにこそフォルクスワーゲンの精神を感じている人にとっては、あるいは許し難い存在とすら映っても不思議はない。

けれど、そんな頑な人をも最後には納得させ、笑顔にまでさせてしまうのは、やはりその姿が、実はラインの1本に至るまで共通の部分などないにもかかわらず、紛れもなくビートルだからという要素が大きいのではないだろうか。そしてビートルと言えば、これはもうフォルクスワーゲン以外の何物でもあり得ないわけで、つまりニュービートルは、必然的にフォルクスワーゲンらしい存在とならざるを得ないのである。この説得力と、それを裏付けする伝統の濃さには、まったく感服させられるばかりだ。

では、実際に乗ってみたらどうなのかと言えば、ニュービートルはそんな遊び心に満ちた存在感とは裏腹に、ブランドに対する期待を裏切らない堅実さ際立つ作りが光る。プラットフォームはゴルフ4と共通ということで、絶対的なポテンシャルは決して高いわけではないが、ステアリングの反応にしろ何にしろすべてが穏やかで、無用な刺激を受けることなく、良い意味でクルマに任せてリラックスして走らせることができるのである。

さすがにカブリオレでは、ボディ剛性の面では不利な部分を感じるものの、それが著しく走りの魅力を損なうことはなく、むしろ「ま、こんなもんでいいじゃない」なんて気にさせてくれる。その辺りは、あるいは愛すべきそのキャラクターの勝利かもしれないが、スペック的には見るべきところのない最高出力116psの直列4気筒2L SOHCユニットを使いながら、今の視点で見ても十分に乗り味の洗練を感じさせるティプトロニック6速ATなど、やはり随所に真面目なエンジニアリングの成果も見ることができる。

見た目ばかり気を遣って中身はそこそこ、というクルマではないのだ。要するにニュービートルは、ポップでファンなそのキャラクターによって、これまでのフォルクスワーゲンの潜在顧客層とはまったく違った層に働きかける魅力を持ったクルマである。

けれど、話は単にそこに留まることなく、癒しすら感じられるゆったり穏やかな走りっぷりや、背景にあるヒストリー、そして伝統等々、そうして掴まえたユーザーをニュービートルのファンからフォルクスワーゲンフリークへと洗脳する魅力を十分に湛えている。

そう、実にしたたかな刺客なのである。結局のところ、フォルクスワーゲンはどれに乗っても、実にフォルクスワーゲンなのだ。当たり前と言えば当たり前。けれど、それは決して簡単なことではない。今回取り上げた3台のように今や個性のバラバラなモデルが揃い、それぞれに明快な個性を持っているにもかかわらず、総じて見れば、やはり共通の味わいがある。これはやはりポジティブな魅力と言えるだろう。

そうは言っても、もちろんどれに乗ってもテイストが変わらないというわけではない。うまく例えるのが難しいが、料理で言えば、どれも違う味でありながら、紛れもなく同じ誰かが作ったとわかる何かがそこにはある、とでも言おうか。だから次も安心して、今まで頼んだことのないメニューをオーダーしてみたくなるという具合だ。この一本筋の通った商品企画やエンジニアリングは、ファンとしては堪らない魅力となるに違いない。

どのモデルにも共通のフォルクスワーゲンらしさに関して言えば、先代ゴルフ4辺りで顕著だった上級化、プレミアム化路線は微妙に舵取りが変わり、たとえばボディパネル間のギャップの小ささやインテリアの設えの良さといった部分に表れる組み付け精度やバラつきの少ない生産品質といった部分は継承しながら、一方で今回触れたポロの標準装備となるウレタンステアリングの見るからに安っぽい感触に代表されるように、ここに来て視覚的、触覚的にはところどころに最高とは言い難い、揺り戻し的な部分も見てとれもする。

では、こうした流れは今後一体どこに帰結することになるのかというのは、とても興味深い部分だ。さらにラインアップ全体を見渡してみても、日本ではそれがジェッタともどもプレミアムセグメント進出を狙うというパサートが、内容的にはゴルフのアップグレード版プラットフォームを使っているのを見ると、成功できなかったフェートン、そしてこちらは大成功となったトゥアレグの今後は気になるところだし、あるいは未だ噂が届かない次期型ニュービートルの動向も目が離せない。ゴルフファミリーの増殖だけでなく、今後は非ゴルフ系ラインナップについても、小さくない変化があるのではないだろうか。

こんな風に書くと不安を煽ってしまうかもしれないが、実は個人的には、大筋ではそんなに心配は要らないかなと思っているのも事実だったりする。何しろ、これだけバラエティに富んだモデルを世に送り出す一方で、それらにすべて同等の安心感や、誰もが感じるフォルクスワーゲンらしさをしかと与えるメーカーの仕事である。それこそ、 期待を超える何かをもたらしてくれるんじゃないかと、今後の展開には大いに期待しているところなのだ。(文:島下泰久/Motor Magazine 2006年3月号より)

ヒットの法則

フォルクスワーゲン トゥアレグV8(2006年) 主要諸元

●全長×全幅×全高:4744×1930×1730m
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:2360kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4172cc
●最高出力:310ps/6200rpm
●最大トルク:410Nm/3000~4000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:681万4500円(2006年当時)

フォルクスワーゲン ポロ4ドア (2006年) 主要諸元

●全長×全幅×全高:3915×1665×1480mm
●ホイールベース:2470mm
●車両重量:1160kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1398cc
●最高出力:75ps/5000rpm
●最大トルク:126Nm/3800rpm
●トランスミッション:4速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:199万5000円(2006年当時)

フォルクスワーゲン ニュービートルカブリオレLZ (2006年) 主要諸元

●全長×全幅×全高:4130×1735×1500mm
●ホイールベース:2515mm
●車両重量:1390kg
●エンジン:直4SOHC
●排気量:1984cc
●最高出力:116ps/5400rpm
●最大トルク:172Nm/3200rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:349万6500円(2006年当時)

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