S90の後継モデルとして1998年に誕生したボルボS80は、2006年のジュネーブショーで2代目へとフルモデルチェンジしている。注目は新たに開発された大型FFプラットフォームを初めて採用したこと。それに合わせて開発された直6エンジンも話題となった。どんなモデルに仕上がっていたのか、スウェーデンで行われた国際試乗会から、その試乗記を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年9月号より)

新しい大型FFプラットフォームを採用

2006年2月のジュネーブショーで発表されたボルボの新型S80に、本国スウェーデンで乗る機会を得た。

現行S80のデビューは1998年だから、すでにC70と並ぶ最古参モデル。しかもそのC70にしても、海外ではすでに新型がデビューしている。今年のボルボの動きはことほど左様にアクティブなのだ。

こうした傾向は今後もしばらく止まないはず。なぜならS80はボルボが新しい大型FFプラットフォームを真っ先に採用するモデルだからだ。過去の経験では、このクルマを皮切りにシャシ構造を共用する基幹車種のS60やV70(新型C70はS40/V50と同じ小型プラットフォームがベースとなった)が順次新型に切り替えられていくのである。

また、このプラットフォームは今後フォードグループが様々に活用する。現時点でもギャラクシーやロンドンショーデビューのフリーランダー2が使っているのだ。

今どきシャシの共用など特に騒ぎ立てることではないし、もちろん乗り味はそれぞれのブランドでまったく異なっているはずだ。それでもボルボが主体になってデザインされたのであろうこのプラットフォームは、先代に続き直列6気筒を横置きに搭載するという極めてユニークなレイアウトで異彩を放っている。

さらに興味深いのは、ボルボないしフォードグループがこのレイアウトを継続するために6気筒そのものを新たに開発したことだろう。

84mm×96mmとかなりのスモールボア/ロングストロークから3192ccのキャパシティを得ているこの新エンジンは、オルタネーターの一体&直接駆動化、ACコンプレッサー/オイルポンプのクランクシャフト後方配置&ギア駆動化など、極限のコンパクト化が図られている。

また、直6の長いクランクシャフトでしばしば問題となる捩じれと、横置きでは特に気になるエンジンのスナッチを吸収するためにハイドロリックダンパーを内蔵していたり、吸気側バルブの開閉タイミングに加え、リフト量までもコントロールする可変バルブシステムを採用するなど、内容的にもかなり意欲的な仕上がりとなっているのだ。

ボルボは今後、これまでの主力だった5気筒を順次置き換える。そればかりかランドローバーまでもが同じエンジンを使うことを考えれば、この6気筒はPAGにとってはかなり重要な位置づけにあり、新技術満載と力が入るのも当然なのである。

画像: 新開発直6エンジンは直5ユニットよりエンジン長が5mmしか違わないというコンパクト設計。エンジンを横置きすることで、前面衝突時の安全性が高まる。

新開発直6エンジンは直5ユニットよりエンジン長が5mmしか違わないというコンパクト設計。エンジンを横置きすることで、前面衝突時の安全性が高まる。

コンパクト設計で横置き可能な直6ユニット

そのフィーリングも好印象だった。振動バランスに優れる6気筒のメリットが前面に出た、いかにも精度が高そうな硬質な回転フィールがまず気持ちいい。

可変バルブタイミング/リフト機構はその制御も滑らかで、特定の回転域から性格が激変するような演出はなく、低速域のトルクと高回転域の伸びを自然に両立させている。スロットルレスポンスも鋭さを増しスポーティな味わいで、パワーも十分。低回転のトルク感は排気量とロングストロークから想像するよりも控えめだが、6速ATの助けもあってかなり積極的に楽しめる。

主力エンジンが変わったことで今後のボルボ各車のテイストにもかなりの変化が出て来るのではないか……、そんな期待すら抱かせる仕上がりぶりである。

ちなみに、S80にはこの上にXC90と同じ4.4LのV8搭載車もあり、こちらはハルデックスカップリングを使った4WDとなっていた。ヤマハ生産のこのV8はトルクフルなのはもちろんのこと、シュンシュン回るキレの良さも魅力。しかもS80では始動直後にガオッとダイナミックな排気音を聞かせる。北米市場でV8を誇示するためのものだろうが、控えめだったボルボがこういった演出を行うようになったあたりにも、変わりつつある今後が見えて来るような気がした。

シャシ性能の向上も体感できた。フロント/ストラット、リア/マルチリンクとサス構成はオーソドックスだが、全体に剛性が向上したことでシャキッとしたハンドリングを得ている。ちなみに直6のタイヤサイズは225/50R17。ノーズが軽いこともあって操縦性/乗り心地ともこちらのまとまりはかなり良い。一方、245/40R18のV8はAWDということもあって重く、路面からの入力はやや強めとなる。

さらに、可変ダンパーのFour-Cや、車速感応型パワーステアリングが採用されたのもニュース。ともにドライバーが好みの3段階を選択できるシステムだ。また、V8モデルは電気式のパーキングブレーキも採用するなど、装備面も一気にアップグレードした感じである。

ボディサイズは全長4850mm×全幅1860mm×全高1488mm。全長は変わらず、その他が若干大型化された程度。これだけの余裕があればキャビンも狭いわけはない、より後席の広々感を出したロングボディの設定があってもいいように感じた。開発陣にそうした意向は今のところないようだが……。

インテリアも魅力的だ。アルミと風合いの変わった樹脂を組み合わせて、いかにも北欧調といった感じのシックな内装としている。V40譲りの裏側の空いたフローティングセンタースタックもいい味を出している。先代から確実に進歩した静粛性と相まって、キャビンの快適性はさらに高まったと言って良い。

最後に気になった点をまとめて挙げておく。S80にはレーダーを使った車間距離制御機能付きのクルーズコントロールや、障害物を感知するブレーキアシスト付き衝突警報装置の用意もある。安全に一家言持つボルボが作ったこれらの安全装置は実に興味深いのだが、日本のレギュレーションに合わないため、今のところ導入の目処は立っていない。

また、四隅を削り込んだシャープなスタイリングは、個としては魅力的だが、実際のボディサイズよりもかなりコンパクトに見せてしまう効果を持っている。この辺が「押し出し」を気にする高級車ユーザーにどう判断されるだろうか。

いずれにせよ、走りとクオリティを格段に向上させた新型S80は、先代以上の注目車種となるはず。日本での発表は今年2006年末。新春からの本格デリバリーと言われている。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2006年9月号より)

画像: いかにも北欧調といった感じのシックな内装。5mm厚みを増やしたサイドガラスにより室内の静粛性も向上している。

いかにも北欧調といった感じのシックな内装。5mm厚みを増やしたサイドガラスにより室内の静粛性も向上している。

ヒットの法則

ボルボS80 3.2 主要諸元

●全長×全幅×全高:4850×1860×1488mm
●ホイールベース:2835mm
●車両重量:1656kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:3192cc
●最高出力:238ps/6200rpm
●最大トルク:320Nm/3200rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
※欧州仕様

 

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