名機なくして名車なし。今回はホンダがS800以来、15年ぶりに発表したDOHCエンジンのZC型にスポットをあててみよう。当時(1980年代前半)はトヨタと日産がパワー競争の先陣を切り、DOHCやターボが幅を利かせていた。そこへ割って入ったのがホンダである。当時のホンダは第二期F1の絶頂期にあり、15年ぶりに復活したDOHCエンジンはまさにF1直系の技術を投入したホンダらしいDOHCだった。

異例のロングストロークDOHCには理由があった

ZC型のベースになったのは、すでにシビック/CR-Xに搭載されていた1.5LのEW型だ。気筒あたり吸気2、排気1の3バルブSOHCで、軽量コンパクトかつスポーティな1488ccの4気筒ユニットである。これをベースに1590ccの4バルブDOHCを開発するにあたり、ホンダはボアを1mm、ストロークで3.5mmそれぞれ拡大・延長。75.0mm×90.0mmのロングストロークに設定している。

ライバルのトヨタ4A-GEは81.0×77.0mmのショートストロークで、これは当時のDOHCでは当たり前とされていた。では、ホンダはなぜ、あえてロングストロークを選んだのか。

その理由はさまざまあるが、まずはベースとなったEW型は元々アルミブロックを採用した4連サイアミーズシリンダー(=連続一体型シリンダー)という軽量コンパクト設計だったことが挙げられる。つまりボアの拡大代がほとんどなかったのだ。さらに、ロングストロークゆえの日常域の実用性も重視したという。あくまで乗用車に搭載することを前提に考えられていたのだ。

画像: シリンダーを連結してエンジンの全長を短縮したサイアミーズシリンダー(写真はZCのもの)。ボア径の拡大は難しい。

シリンダーを連結してエンジンの全長を短縮したサイアミーズシリンダー(写真はZCのもの)。ボア径の拡大は難しい。

F1直系の技術をバルブ駆動に採用

一方、ヘッドまわりにはホンダらしい数々の独自技術が投入されている。浅いペントルーフ型燃焼室(圧縮比は9.3)、センタープラグ配置、内部の肉抜きを行った世界初の異形中空カムシャフト、軽量ピストンなど、等など軽量化とフリクションロスの低減は徹底された。

画像: DOHCでありながらF1テクノロジーの導入でコンパクトなヘッドまわりを実現したZC。F1用のRA-163E型エンジンを彷彿とさせるレーシーなヘッドカバーデザインもライバルたちとは一線を画した。

DOHCでありながらF1テクノロジーの導入でコンパクトなヘッドまわりを実現したZC。F1用のRA-163E型エンジンを彷彿とさせるレーシーなヘッドカバーデザインもライバルたちとは一線を画した。

中でも注目したいのが、F1直系を謳ったバルブの作動方式である。DOHCではポピュラーだった直打式(=4A-GE型などカムが直接リフターを介してバルブを押す方式)ではなく、当時のF1エンジンと同じくロッカーアームを介したスイングアーム式を採用したのだ。カムとバルブの間にごく小さなスイングアームを介し、テコの原理でバルブのリフト量を稼いだ(=ハイリフト化)。そのリフト量はIN側で10.3mm、EX側で9.0mmだ。しかも、カムはバルブの内側に収めており、これは市販車では世界で初めて採用された技術だ(ホンダは4バルブ内側支点スイングアーム方式と呼んだ)。

ちなみにバルブ径はIN30mm、EX25.5mm。4A-GE型よりボアが6mmも小さいのに、バルブ径は勝るとも劣らない(4A-GE型はIN30.5mm、EX25.5mm)。ともあれ、このバルブ作動メカニズムの採用により吸・排気効率が大幅に高まっただけでなく、4バルブでありながらヘッドのコンパクト化(バルブ挟角は約50度)も実現したのだ。

画像: 1984年10月、初のZC型エンジン搭載車としてラインアップに追加されたシビックSi。グループAレースでも驚異の速さを見せつけた。

1984年10月、初のZC型エンジン搭載車としてラインアップに追加されたシビックSi。グループAレースでも驚異の速さを見せつけた。

画像: シビックと同時に発売されたバラードスポーツCR-X Si。ボンネットに設けられたバルジがZCエンジン搭載車の証しだ。

シビックと同時に発売されたバラードスポーツCR-X Si。ボンネットに設けられたバルジがZCエンジン搭載車の証しだ。

こうして完成したZC型エンジンは1984年10月24日、まずはシビックとバラードスポーツCR-Xに搭載された。最高出力はグロス135ps/6500rpm、最大トルクは同15.5kgm/5000rpm。燃料噴射は電子制御(=「PGM-FI」)が採用されている。ライバルのトヨタ4A-GE型は130ps/6600rpm、15.2kgm/5200rpmであったが、とかく比較されがちな両エンジンの性格が異なるのは一目瞭然だ。最高出力で5ps上回り、特に街乗りでの扱いやすさはZCに軍配が上がる。低速から粘り、たとえば3速アイドリング+αからでもアクセルひと踏みでまったくストレスなく吹け上がる。このフレキシビリティは回して走る4A-GE型にはないものだった。

スポーツユニットにありがちな気むずかしさのなかったZC型は、1985年2月に登場した初代インテグラにも搭載(実は本来ZC型はインテグラ用に開発がスタートしていた)。PGM-FI仕様に加え、より中〜低速域の実用性を重視したキャブレター仕様もラインアップした。

さらに1987年9月のシビック/CR-Xのモデルチェンジに際して4バルブSOHCのZC型(PGM-FI仕様いわゆるハイパー16バルブ)も登場している。SOHC判ZC型はその後もバリエーションを増やし、シングルキャブ仕様やデュアルキャブ仕様も登場。最終的には後述する可変バルブタイミング機構「VTEC」を搭載するに至る。またDOHC版も1987年には各種改良によってネット表示で130ps/6800rpm、14.7kgm/5700rpmへ大幅にパワーアップしている。

事実上の後継機B16Aは驚異のリッター100ps

ライバルに比べて街中でのドライバビリティに優れ、かつホンダDOHCらしい劇的な吹け上がりも両立したZC型であったが、それが世に出たときにはすでに開発陣は“その次”を見据えていた。「小排気量DOHCでさらなるパワーアップを狙い、且つ低速から高速まですべてをシームレスに使うには今のレイアウトでは限界がある」。そこで開発が始まったのが、低速用と高速用でカムのヤマを切り替える「VTEC」機構だ。バルブの開閉タイミングを低速と高速で切り替えて、全域で豊かなパワーを実現するのが目標だった。

画像: 1989年4月、リッター100psを達成したB16A型DOHCを搭載したインテグラ(写真はXSi)がデビューした。

1989年4月、リッター100psを達成したB16A型DOHCを搭載したインテグラ(写真はXSi)がデビューした。

1989年4月、そんな夢のようなDOHCエンジンが次世代のテンロクエンジンとして2代目DA型インテグラに載せられて世に出た。事実上のZC後継機であるB16A型は、リッター100psというレーシングエンジン並みのハイスペックを実現しながら、ごく低速域でも実用エンジンのように扱いやすい夢のようなエンジンとして衝撃的なデビューを果たした。B16A型はハイパワーを狙った超高回転型/ショートストロークでありながら、低速の実用域を犠牲にしない夢のようなエンジンだった。

ホンダはこのVTECを軸にエンジン戦略を組み立てるようになり、DOHC版ZC型は搭載車を縮小していく。とは言え、ZC型は次世代エンジンへの橋渡しという役割を担い、ホンダDOHC復活のきっかけを作った名機であることは間違いない。今でも愛好家が大勢いるのも納得である。

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