2007年、注目のコンパクトモデルが続々と日本に上陸している。それはプジョー207GT、MINIクーパー、ゴルフGT TSI。いずれもダウンサイズ直噴ターボエンジンを搭載していること、FFハッチバックであることなど共通することが多い。では、走りのパフォーマンスはどうなのか。Motor Magazine誌では高速道路/ワインディング、そしてサーキットでそのスポーツ性能をテストしている。その時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年6月号より)

コンパクトカーが面白くなってきた

MINI、プジョー207と新着モデルが相次いだことで、輸入コンパクトが俄然面白くなってきた。この2台はともにBセグメントに属するが、近年はこのクラスも大型化が急で、207に至っては1750mmの全幅を得るまでになっている。

ただ、そのサイズアップは必ずしも居住性には直結しているとは言えない。フロントシート乗員頭上にルーフ曲面のピークがあり、グラマラスなフェンダーラインとは対照的に後半のグリーンエリアを絞り込んだ207のスタイリングはそれを象徴している。もちろんリアシートも実用に耐える空間は確保しているが、基本パッケージはあくまでもフロントシート優先。つまり、よりパーソナル性を高めているのが昨今の欧州Bセグメントハッチバックなのである。

3ドアボディのみで勝負し、サイズも全長の+60mm以外に大きな変更がなかったMINIももちろん同様。このようにパーソナルに楽しむクルマだからこそ、走りの個性が非常に重要になってくる。もっと噛み砕いて言えば、ドライビングファンあるいはスポーツ性。今回はそこに重きを置いて観察すべく、シリーズ内でも最もスポーツに特化したMINIクーパーSとプジョー207GTを、サーキット走行を含むロングドライブに連れ出した。

そしてもう1台、前記した2車とは若干立ち位置が異なるが、新エンジンで注目されるゴルフGTも。ゴルフの場合、シリーズの最高峰にGTIやR32といった高性能モデルも控えるが、次世代を担うTSIエンジンの素性を、スポーツを主眼に改めて見直すことは意味がある。唯一Cセグメントからの参加で、ファミリー層のニーズに応えられるとなればなおさらだろう。

というわけで、3台のスポーツハッチは西から近づいてくる雨雲から逃げるべく常磐道の北上を開始した。

画像: 2007年3月に上陸したプジョー207。試乗車はスポーティバーションの207GT。

2007年3月に上陸したプジョー207。試乗車はスポーティバーションの207GT。

足元スペースの広がりで最適に座れる207

まず最初にステアリングを握ったのはプジョー207だ。先代206の右ハンドルはペダル周りのレイアウトが若干厳しく、全体に左寄りで慣れるのに苦労した記憶があるが、207ではこの点が解消されているのにまず安心した。ABCペダルは無理のない位置にあるし、ステアリングシャフトが爪先に当たるようなペダルルームの狭さもない。サイズアップの恩恵はこんなところにも表れているのだ。

唯一の不満は、フットレストに足を乗せる際クラッチに軽く触れてしまうこと。クラッチとセンターコンソールの間隙がまだ不足気味なのである。しかしこれは慣れでカバーできるレベル。そこを通過してしまえばフットレスト自体は広くコーナリング中しっかり踏ん張れるし、207はチルトに加えテレスコピックも備わっているため、ペダルで合わせて、やや後ろ寄りのドラポジを取った上でステアリングも理想的な位置にセットできるなど、運転環境は劇的に良くなった。これはスポーツドライビングにとってとても重要だ。

とは言え、キャビンが丸く、サイドウインドウの下端も低く、しかもグラスルーフ付きのため金魚鉢の中にいるような独得の開放感がある207は、やはりBセグメントなりの実用性や心地よさを第一義としたパッケージであることがわかる。

そこからMINIに乗り換えると、Aピラーが直立し、小さめのフロント/サイドウインドウ越しに外界を眺めるコクピットはかなりタイトで、こちらはいかにもスポーティ。センターコンソール下端に並んだトグルスイッチや、大きなメーター類が醸すメカニカル感覚もそんな気分を盛り上げる手伝いをしている。実用車然としたところがまったくない独自の世界を作り出していた。

見た目には狭く感じるMINIのコクピットだが、実際にそこに収まってみるとクルマに身体がはまり込んだフィット感がある。ペダルはやや立ち気味で手前にあるが、位置関係は適切だし広さも十分。タコメーターと一緒にチルト&テレスコピック調節できるステアリングでドラポジの細かい調節も可能だ。何よりも嬉しいのはシートの座り心地が劇的に向上したこと。快適なだけではなくホールド感も向上している。

唯一気になるのはメーターのレイアウト。センターにあるスピードメーターは、柱時計の如き大きさとは言え、走行中に見るには視線の移動が不可欠だ。ステアリングの中に収まるタコメーターとの同時確認は絶望的である。しかしタコメーター中央の液晶に速度はデジタルで表示されるので実用上はまったく問題ない。

最後にゴルフGTだが、これはもうスペースの余裕が前記の2車に対して圧倒的だ。ペダル配置や足元の広さにはまったく問題ないのはもちろん、ややアップライト気味の行儀良い運転姿勢とクリアな全周囲視界が得られている。

非常に合理的かつコンサバティブなため、キャビンに収まって得られる「ワクワク感」は他の2車の方が強いが、GTはサイドサポートの張ったスポーツシートを採用する上に、今回唯一のオートマチックトランスミッションもレスポンスの良さに定評のあるDSGで、しかもステアパドル付き。走りの演出もどこまでも真面目なのである。

画像: 2007年1月に日本では発表された新型MINI。試乗車はMINIクーパーS。

2007年1月に日本では発表された新型MINI。試乗車はMINIクーパーS。

3車のエンジンが持つ「トルクフル」という共通項

そんなことを確認しつつ高速〜ワインディングと走って得たエンジンの印象に話を移そう。興味深かったのは、次世代を盛り立てていくであろうスポーツモデルの3車すべてが、中低速域で実にトルクフルであるという共通項で括れることだ。

MINIクーパーSとプジョー207GTに搭載される1.6L直噴+ツインスクロールターボは、両社の協力関係に基づき開発されたため基本構造は共通。207は後にGTiという、より高性能なモデルが控えているためかクーパーSより最高出力を抑えているものの、その分最大トルクの発生ポイントをさらに200rpm下げ、1400〜3500rpmの間で得られる。

直噴の1.4Lエンジンにツインチャージャーを組み合わせるTSIも、機構は若干異なるが考え方は同じ。奇しくも同じ240Nmを1500〜4750rpmの間で発生する。

こうした性格のエンジンは、比較的早いタイミングで上のギアに入れ最大トルクの発生回転域を重点的に使うと、実に息の長い伸びやかな加速が楽しめる。高速道路ではスルスルと引っ張られるような速度の乗せ方が心地良いし、市街地でも3速に入れておけば、ほとんどの局面をこなせてしまうため非常にラクだ。

ワインディングにおいても、タコメーターを睨みながらシフトタイミングをはかる……なんて走りはあまり似合わない。もちろんそれも可能だが、実は想定するよりもひとつ上のギアでアクセルを軽く踏み込んでやっても、得られるコーナーからの脱出スピードは変わらないのだ。

回転をいたずらに上げても高回転域で得られるパンチはさほどのものではない。それよりもトルクの豊かな中〜低速域を生かして気張らずに滑らかな加速を楽しむのが、当世の直噴過給エンジンのスポーティな楽しみ方というわけである。

こうした基本的な性格は驚くほど似通っているものの、今回の3台の間でもフィール面の若干の差はもちろんある。中で僕が最も心地良いと感じたのはクーパーSの175ps仕様だった。最もパワフルな仕様でありながら1170kgと最軽量のため、その走りは実に歯切れが良い。

低回転域のトルクフルさと高回転の伸びが最も巧くバランスしている印象なのである。組み合わされるMTが6速で、しかもシフトフィールも節度があって好ましい。前記した事柄と若干矛盾するかも知れないが、回しても楽しいのが最大の魅力だ。

207とゴルフのGTはパワーフィールのキレ味という点ではほぼ互角。高回転域の伸びはそこそこだが、中〜低速域のアクセルレスポンスは十分に楽しめる。

ただ、207の5速MTはストロークの大きさとシフトゲート感の希薄さがちょっと気になった。エンジンフィールは滑らかさとトルクフルさでいかにも新しいスポーツ感覚。5速であることもトルクバンドの広さからまったく問題ないが、シフト操作がオーバーアクション気味。スタート時のクラッチミートをラフに行うとエンジンの揺動感も大きい。

DSGを搭載するゴルフGTは、最終的にクラッチ操作は機械任せのためMTほどのダイレクト感はないものの、極低速域を除けばシフトはスムーズかつハイレスポンスで非常に気持ち良い。トルクフルなエンジンとイージーかつスポーティなDSGの組み合わせは、いかにも新世代スポーツ、といった感覚だ。

画像: 日本では2007年1月に発表されたゴルフGT TSI。直噴1.4L直4DOHCツインチャージャーエンジンを搭載。 式

日本では2007年1月に発表されたゴルフGT TSI。直噴1.4L直4DOHCツインチャージャーエンジンを搭載。

サーキットで見る走りの美点は異なる

さて、最後は操縦性。実は3車3様の個性がもっとも鮮やかに感じられたのがここである。

207GTは圧倒的な安定感が魅力だ。これはゴルフの得意分野だと思っていたのだが、高速道路の追い越し車線を真っ直ぐピタッと安定して走るさまは、較べても遜色ない。ステアフィールもその領域ではずっしりと重厚。クラスレスとも言える骨太な乗り味である。

一方、MINIの高速での所作はなかなかに陽気だ。ステアリングの細かい動きに逐一反応し、車線間をスイスイと移動できる。それでいて直進時に妙なナーバスさを感じさせることもない。だからこそ陽気と肯定的な表現ができるのだが、どっしり系の他の2車とは明らかに異なるキャラクターに仕立てられている。

高速を下りてワインディング、さらにサーキットへとステージを移すと、3車の違いはさらにはっきりして来た。207GTのコーナリングはあくまでもステアリングに忠実。リアタイヤもこれに正確に追従し、滅多なことでは軌跡をブラさない安定性を持っている。

ただ、徹頭徹尾弱アンダーを保つ冷静なハンドリングを味わっていると、人間とは贅沢なもので、もう少し刺激が欲しいと思ってしまうのも確か。その点でどこまでも陽気なのは、やはりクーパーSだった。

軽量/コンパクトさと、機敏なステアリングが織りなすクイックな動きはまさにゴーカート感覚。先代に較べると乗り味にしなやかさが出て来ているが、それでもなお、今回の3車の中では抜きん出てビビッドな動きを楽しませる。

そんな評価が固まりかけたところでサーキットを走り出したのだが、ここで再び驚く発見があった。何かと言えば207GTの卓越したシャシ性能だ。フロントタイヤの接地性は群を抜いて高く、タイトターンで深く切り込んでもキチンとレスポンスする。そしてこの領域になると、わずかにリアを滑らせるイキイキとした魅力も見えてくる。

クーパーSは変わらずキビキビとした動き。ただし一定の領域を越えるとフロントタイヤがダダダッと滑り出してひたすらアンダーステアになる。つまりそこが限界で、それは207GTよりも明らかに低い。

ゴルフGTは、唯一のCセグメントということで大きく重いため、コーナーでの所作はもっと鷹揚で重厚だ。ただ、ハンドリング自体は207寄りの安定志向をベースとしながら、アクセルのオン/オフ、ブレーキングの仕方などにより、より多彩な挙動を楽しませる側面も確認できた。ドライビングファンという部分では、最もわかりやすいのがゴルフとなるのかも知れない。

このように、3車の走りはそれぞれ違った魅力を持っている。ダウンサイジングターボエンジンが皆、似通った性格となっている反面、ハンドリングに強い個性を見出せたのは大きな楽しみであり発見だった。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2007年6月号より)

画像: 2007年に入り、日本に上陸した注目のコンパクトモデル。MINIクーパーS、プジョー207GT、ゴルフGT TSI(左から)。ダウンサイズ直噴過給エンジンの搭載、FF駆動方式、ハッチバックスタイルと3台には共通する要素が数多く存在している。

2007年に入り、日本に上陸した注目のコンパクトモデル。MINIクーパーS、プジョー207GT、ゴルフGT TSI(左から)。ダウンサイズ直噴過給エンジンの搭載、FF駆動方式、ハッチバックスタイルと3台には共通する要素が数多く存在している。

ヒットの法則

プジョー207GT 主要諸元

●全長×全幅×全高:4030×1750×1470mm
●ホイールベース:2540mm
●車両重量:1270kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1598cc
●最高出力:150ps/5800rpm
●最大トルク:240Nm/1400-3500rpm
●トランスミッション:5速MT
●駆動方式:FF
●車両価格:264万円(2007年)

MINI クーパーS 主要諸元

●全長×全幅×全高:3715×1685×1430mm
●ホイールベース:2465mm
●車両重量:1210kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1598cc
●最高出力:175ps/5500rpm
●最大トルク:240Nm/1600-5000rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
●車両価格:295万円(2007年)

フォルクスワーゲン ゴルフGT TSI 主要諸元

●全長×全幅×全高:4225×1760×1500mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1410kg
●エンジン:直4DOHCツインチャージャー
●排気量:1389cc
●最高出力:170ps/6000rpm
●最大トルク:240Nm/1500-4750rpm
●トランスミッション:6速DSG
●駆動方式:FF
●車両価格:305万円(2007年)

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