2007年6月、BMW X5がフルモデルチェンジして日本に上陸した。初代は1999年にデビュー、SUV市場に衝撃を与えるとともに、生産台数58万台という大ヒットとなった。2代目はどう変わったか。Motor Magazine誌では、新しい3.0siと4.8iを連れ出してテストを行っている。その模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年9月号より)

インテリアの質感は上々、悪天候でも絶大な安心感がある

あいにくの台風であった。編集部から真新しいX5の3.0siを借り出し、その週末は気の向くまま走り回ろうと思っていた矢先。大型台風が日本列島にやってきて、ドライブどころじゃなくなった。

と、まあ、フツウのクルマなら家で「ふて寝」となるところだったのだが。なぜか、そんな雨風の中、走り出してみようという気になった。

最初は、そんな気分になった根拠が自分でもよくわからなかった。もちろん、いくつか行きたい場所があって、クルマで移動するほかなかったのも事実。目的はあったとはいうものの、雨風をおして行かなければならないというものでもなかった。

傘を少しすぼめてさし、雨と風をしのいで、我が家の駐車場に佇む、びしょ濡れのX5に乗り込んだ。そこで、はたと気づく。大型SUVというジャンルに人気が集まるわけは、見かけ倒しではない、この絶大なる安心感の実存にこそあったということに。それこそ台風の中、出かけたってへっちゃらだと思えるほどに、生身の体を守ってくれているという実感に富んでいるのだった。

それにしても、改めて新型X5のインテリアを眺めてみると、その質感は上々であるだけでなく、アルミ華飾の扱いに新しささえある。決してこれみよがしに使わず、せっかくのアルミ地肌を裏に回り込むように配して、見えないところにもこだわった、といった風情を演出してみせた。またぞろ他のブランドが真似しそうだ、と代わりに心配してあげたりもする。

シフトレバーもユニーク。あまりに先進的すぎて、インテリア全体の雰囲気からは多少浮いてしまっているような気もするが、モノ感覚に溢れ、操作性も悪くない。

セレクターレバーの使用方法そのものは、7シリーズのコラムレバーをそのまま移動させたものと考えていい。要するに、今どきのトランスミッションマネージメントは電気信号によるものだから、レバーをがこがこ動かすというよりはむしろ、スイッチを押すかの如く軽い力で操作する方が理にかなう。個人的にはもう少し節度があった方が使いやすいと思ったが、慣れれば、これほど扱いの良いものはない。

もちろん、お気に入りの操作を8つのボタンに自由に振り分けることのできるプログラマブルボタン付きiDriveも標準装備となった。

新型ではレザーシートも標準だ。試乗車は濃紺のボディカラーに明るい焦げ茶のシートという組み合わせがシックで、オトナの雰囲気。もうこれだけでライフスタイルのステージが一段階上がったような気になって、借りてきたクルマであるにもかかわらず、ちょっと得した気分。

ワイパーをオートで作動させる。相変わらず雨は降りしきる。バックモニターを頼りにした後、パーキング出口へとノーズを向けた。車外は人の存在を小さく感じさせるほど最悪の状況にあるというのに、ギュッと身のしまった出だしで、矮小な気分を一掃してくれる。

画像: X5 3.0si。初代モデルが大ヒットとなっただけに、エクステリアは従来とそれほどイメージが変わらない。大きく変わったのは195mmも全長が伸ばされて、3列シートも用意されることだろう。

X5 3.0si。初代モデルが大ヒットとなっただけに、エクステリアは従来とそれほどイメージが変わらない。大きく変わったのは195mmも全長が伸ばされて、3列シートも用意されることだろう。

ボディ剛性を増しながら重量増は抑えられた

この凝縮感のある走りこそ、X5の魅力である。ことに新型は初代に比べて、全長で195mm、ホイールベースで115mm、全幅で65mm、高さで25mm、それぞれ大きくなった。にもかかわらず、身の詰まり方は先代以上だ。

これには秘密があって、ボディ全体のねじり剛性を15%も向上させているのに加え、アルミニウム製エンジンフードや樹脂製フロントフェンダー、さらにはマグネシウム製ダッシュインナーパネルなどを採用することで大幅な軽量化をも同時に実現している。

その結果、直6モデル比でわずかに20kg増、V8モデル比に至っては逆に40kgも軽くなっている。道理で大きくなったにもかかわらず、それを感じないわけだ。

熟成の進むアクティブステアリングが標準となったのも、大きく効く。低速時は、なんとロックトゥロック2回転というクイックさ。大きく感じている暇もないわけだ。大きさを必要以上に感じないから、狭い路地でも遠慮なく入ってゆける。

初代X5は、SUVの走りを変えたエポックメイキングなモデルだったが、モデルライフを通じて人気が衰えなかったことを見てもわかるように、走りそのものに関して言うと、最後までトップレベルにあった。

だからこそ、フルモデルチェンジとなった2代目では、パフォーマンスアップもさることながら、居住性や質感の向上にも力が注がれた。

実際、前席では横方向がゆったりとし、視界もより見渡すようになっている。後席では足下スペースが格段に広がった。そして、望めば3列目シートを装備することもできる。アメリカ市場の大いなる要望といえそうだが、最近では日本の都会でも、7シーターがママズカーとして活躍し始めたから、案外、人気を呼ぶに違いない。ちなみに、気になる3列目の居住性はというと、シートそのものは大人でも十分だが、足下が辛い。やはり、子供用にと割り切って使うべきである。

従来同様に2列シートを選べば、ラゲッジスペースの容量も段違いに大きくなった。通常時620L、2列目収納時は1750Lと、ステーションワゴンも真っ青の収納力だ。先代モデルに比べて販売価格は上昇しているが、それ以上に中身や装備は進化していると言っていい。

直6、V8ともに、6速AT+xDriveというメカニズムは共通だ。その他のメカニズムも基本的に同じ。だとすれば、エンジンパフォーマンスの差をしっかり知っておけば、新型X5購入の決断ができる。

ところどころに雨水を貯めた都道を、自信たっぷりに進む。路面状況が悪いにもかかわらず、マグネシウムとアルミニウム軽合金のクランクケースを持つ軽量3L直6エンジンは、軽快なビートとともに必要十分なトルクをxDriveに伝えた。

ボディがより堅牢になったこともあって、直6の力では枠組みの存在を強く感じることがある。加速時のエンジンフィールがやや薄味に思えるのだ。もっとも、4.8Lとなって大幅にパフォーマンスの向上を果たしたV8エンジンと比べること自体、間違ってはいるのだが。

アクティブステアリングのマナーには、もはや不自然さはない。xDriveとあいまって、悪天候時の安定した走りにも大いに寄与している。

雨がどんどん激しくなってきたというのに、高速道路に乗らねばならない。進入路のスロープには川のように雨水が流れている。セダンなら尻込みするような状況でも、まるで気にならない。「なんならほんまもんの川でも持ってこい」ぐらいの、またもや威勢である。

実際、最悪のコンディションであったにもかかわらず、高速走行の安定感には目を見張るものがあった。路面が乾いていたならば、どれほどの安定感をみせるというのか。新設定のヘッドアップディスプレイも、悪天候時に一層、威力を発揮する。

画像: X5 4.8i。SAVとして初めてランフラットタイヤを標準採用。走行条件にもよるが、パンクしても最大積載時でも80km/hで最大約150km走行可能。

X5 4.8i。SAVとして初めてランフラットタイヤを標準採用。走行条件にもよるが、パンクしても最大積載時でも80km/hで最大約150km走行可能。

間違いなくあった「駆けぬける歓び」

ちなみに、別の機会に試すことができたV8+アダプティブドライブでは、とにかく「攻め」の気分になるのが愉快でもあり、疲れる要素でもあった。6500rpmまできっちり力を出しながら回るエンジンと、微小でコントロールしやすいロール、そして楽しみを奪わない電子デバイスの介入と、目を三角にして走らせても、まるでよくできたFRサルーンのように駆けぬけることが、楽しくもあり、気ぜわしくもある。もちろん、自由選択だから、SAV中のSAVとしての新型X5に価値を求める向きは、オプションで選んで欲しい。付け加えておくと、新型ポルシェカイエンのPDCC付きの方が、より自然で気持ちのよい制御を実現していると私は感じる。

話を「付いてなない」3.0siに戻そう。付いていなくても、アシの捌きは十二分にBMWだ。むしろ、アダプティブドライブがない方がBMWらしい。路面状況の悪い中でも、しっかりとインフォメーションを伝え、自然なロールとクッションを感じさせつつ、適度なしなやかさでもって、肩肘張らないドライブを約束する。疲れることなく、目的地へとたどり着いた。雨は依然、激しく降っている。けれども、ただ寝転んで過ごすことになったかも知れぬ、大切な休日が、有為になったことで、また得した気分になった。

今度は晴れた日に、思う存分、ワインディングを駆けぬけてみたいと思う自分がいた。まるでZ4に乗ったときのような気分になったことに、少し驚いてしまう。背の高いクルマで余暇を過ごすなんて、絶対あり得ないと思っていたのに。

なるほど、世の人がSUVなるものに憧れる意味が、少しだけわかった気がした。普段乗りでは守られているという精神的余裕に包まれ、いざ行動を起こす際には環境を選ばない強さを持つ。もちろん、あくまでも乗用車ライクなパフォーマンスで、SAVと自ら別世界に定義づけるX5だからこそ、新しい世界を見つけることができたのだと思う。

そして、それを知るにはV8モデルでなくても十分であったということを、最後に付け加えておきたい。(文:西川淳/Motor Magazine 2007年9月号より)

画像: 基本的に初代のイメージを踏襲して登場した2代目BMW X5。リアゲートは初代同様、上下2分割式。左が4.8i、右が3.0si。

基本的に初代のイメージを踏襲して登場した2代目BMW X5。リアゲートは初代同様、上下2分割式。左が4.8i、右が3.0si。

ヒットの法則

BMW X5 3.0si 主要諸元

●全長×全幅×全高:4860×1935×1765mm
●ホイールベース:2935mm
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:272ps/6650rpm
●最大トルク:315Nm/2750rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:753万円(2007年)

BMW X5 4.8i 主要諸元

●全長×全幅×全高:4860×1935×1765mm
●ホイールベース:2935mm
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4798cc
●最高出力:355ps/6300rpm
●最大トルク:475Nm/3400-3800rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:963万円(2007年)

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