アウディ TTクーペ(2002年)
1998年に発表された、アウディのスペシャリティモデルがTTだ。最初にクーペが発表され、のちに電動ソフトトップのロードスターも発表された。デザイン的にも話題を呼んだTTだが、スポーツカーという意味合いが強かったのか、いままでトランスミッションにはATが設定されていなかった。
トップグレードのクワトロはマニアックなユーザーが中心だからMTだけでも仕方ないのかもしれないが、エントリーグレードであるFFの1.8TもMTしか設定されていないのは、ユーザー層の拡大には(とくに日本では)つながりにくい。独特のスタイリッシュなクーペなのだから、ユーザーを増やすためにもATの設定は不可欠だと思われていた。
そんな声にアウディはようやく応えてくれたのか、AT仕様が追加された。それも単なるATではなく、FF用としては非常に珍しい6速を採用した。もちろん、ティプトロニックと呼ばれるマニュアルモード付き。これはフォルクスワーゲン&アウディと、ZFやアイシンが共同開発したもので、今後はフォルクスワーゲンのビートルをはじめ、グループで多くのモデルに搭載される予定だ。
パワーユニットは、6速MTのものと変わらない。最高出力の180psや最大トルクの24.0kgm、それらの発生回転数も同じだ。マニュアルモードはステアリングのスイッチで変速できるSモードも備わる。メーカー公表値では、最高速度は225km/h、0→100km/h加速は8.4秒となっている。車両価格は399万円で、MTモデルとの価格差は9万円だ。
さて、TTがATを手に入れて、その走りはどう変わったのか? ひとことで言うなら、「TTのベストモデルは、コレ!」。この組合せは大正解。まさにベストマッチだ。TTはスポーツカー的な佇まいだが、意外にジェントルな雰囲気が特徴で、MTを駆使してワインディングを駆けまわる・・・というクルマではないと思う。エンジンをガンガン回して走っても、TTはリアルスポーツカーではないから、そんなことをしても物足りなさを感じられたのも事実。
それだけに、このATはTTの走りの特性にマッチしている。ティプトロニックだからマニュアルモードも備わっているけれど、Dレンジに入れっぱなしで走ってもダイレクト感は薄まるものの、実に軽快で滑らかな、TT本来のジェントルな走りを楽しむことができる。
もちろんマニュアルモードを使えば、それなりにスポーティな走りも味わえる。だが、ある程度のペースで気持ち良く走ろうといったシチュエーションなら、Dレンジに入れっぱなしでも物足りなさを感じることもなく、実に気持ちのいい走りっぷりを見せてくれるのだ。
つまり、このATはTTの持っているスタイリッシュな雰囲気にピッタリの走りをもたらしてくれた。そういう意味でも、このATの採用は大正解といえるだろう。スタイリッシュなTTの走りを、多くの人が存分に味わえるようになったのだから。
■アウディ TTクーペ 1.8T 主要諸元
●全長×全幅×全高:4060×1765×1340mm
●ホイールベース:2425mm
●車両重量:1330kg
●エンジン形式:直4・5バルブDOHCターボ・横置きFF
●排気量:1780cc
●最高出力:132kW(180ps)/5500rpm
●最大トルク:235Nm(24.0kgm)/1950-5000rpm
●トランスミッション:6速AT(ティプトロニック)
●タイヤ:205/55R16
●車両価格(当時):399万円