2008年1月、かねてより噂されていた「122psのTSIエンジン」と「乾式7速DSG」の完成が発表され、そのパワーユニットを搭載した「ゴルフTSI トレンドライン」が欧州市場に登場、大きな注目を集めた。ここではその発表にあわせて、急遽、スペイン・バルセロナで行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年3月号より)

途切れのない加速を実現したDSG

世界中の自動車メーカーの中で、内製のトランスミッションを使用するメーカーはそう多くない。高い技術力と生産力があれば、自社で開発したトランスミッションを組み込むのがベストであろうが、最近ではトルクの大きいディーゼルエンジンに対応するトランスミッションの開発、とくにオートマチックトランスミツションの開発に手間取るケースも見受けられる。

こうした状況下において最近目覚ましい業績を上げているメーカーがフォルクスワーゲンである。

フォルクスワーゲンは2003年にデュアルクラッチを持った画期的なトランスミッション「DSG」を発表。広範囲に採用されていたトルクコンバーター式ATとほぼ変わらない快適性を持つ一方で、燃費とスポーツ性を両立させる2ペダルセミオートマチックとして脚光を浴びた。当時、アクチュエーターを使ったシングルクラッチ式2ペダルが注目されていたが、それらを一気に過去のものとする内容だった。

DSGは、ギアボックスの偶数段と奇数段をそれぞれ担当する2組の電子制御式クラッチを備える、3軸タイプのインテリジェント・オートマチック・トランスミッション。たとえば、1速でスタートした時にはすでに2速のクラッチがつながっているといった具合に次のギアがスタンバイすることによって、途切れのない加速を生み出す。それまでの2ペダル式MTでは、その構造上どうしても駆動力が途絶える部分があったのに対し、DSGは常にギアが噛み合った状態でクラッチを切り替えることで、駆動輪に伝わるトルクが途絶えないことが最大の特徴だと言える。変速に必要な時間はわずか0.2秒とされている。

DSGは、すでにフォルクスワーゲンが持っていた3軸タイプのトランスミッションを基本としているので、その開発は比較的簡単だったようで、特別な構造をしているわけではないのもポイント。このシステムは、ポルシェがレーシングカーである956に採用したPDKと同様の仕組みで、実用化への課題は主に、その制御技術にあったと言われている。

初めてDSGが搭載されたのは2003年、先代ゴルフR32のことだったが、以来、DSGは爆発的な人気を得て、わずか4年でその販売台数は100万台に達している。ちなみに、これまでの装着率を見ると、スタンダードなゴルフで10%、トゥーランが25%、そしてパサートが28%、ゴルフGTIでは33%、ゴルフR32にいたっては60%に達するという。これはドイツの一般的なオートマチック装着率に比べると格段に高い数値である。

乾式クラッチで効率のよいトルク伝達

今回、その6速DSGに加え、新たに7速DSGが完成した。これまでのものとの違いは、クラッチがオイルサンプに浸かっていない乾式であること、そして7速化されたことである。乾式となったことで、オイルの量は7.0Lから1.7Lまで省略され、それらの結果、重量は7kg軽い73kgとなった。また全長は4mmほど短くなり、ポロをはじめとするコンパクトモデルに搭載されることも可能になったという。

もっとも、いいことばかりではない。乾式であることから、熱の問題もあり、6速DSGが最大350Nmまでのトルクに耐えるのに対して、こちらは最大250Nmまでしか許容されない。また、もともとDSGは突然の大入力に弱いところもあることが指摘されているが、乾式の場合はその傾向が強まる。それゆえ、ティグアンなどのSUVに向かないという点もある。また湿式でないため、その制御はさらに難しくなるはずで、変速ショックや耐久性も気になるところではある。

つまり、7速DSGにすべて切り替わるようなものではなく、今後はエンジンに合わせて湿式の6速DSGと乾式の7速DSGを使い分けていくことになる。ちなみに、6速DSGはDQ250、7速DSGはDQ200と呼ばれる。

画像: 新たに開発された乾式のDSG、ドライクラッチを使用するため軽くコンパクトであることが特徴。このため大きなトルクには対応できないが、ギアの7速化が実現できたという。

新たに開発された乾式のDSG、ドライクラッチを使用するため軽くコンパクトであることが特徴。このため大きなトルクには対応できないが、ギアの7速化が実現できたという。

シングルターボとなった新しい1.4TSI

この7速DSGは、122ps仕様の新しい1.4TSIエンジンと組み合わされて、2008年5月頃、日本に導入されるという。これが従来のEにかわる、TSIトレンドラインとなる。

今回はそのモデルに試乗するために、スペイン・バルセロナにやってきたわけだが、試乗車のボディには「7スピードDSG インテリジェント・オートマチック・ギアボックス」と書き込まれ、まるで宣伝カーのような出で立ちなのには驚いた。まあ、ゴルフEに代わるモデルゆえ、それぐらいしないと、ふつうのゴルフと見分けがつかないような外観なのである。

122ps仕様の1.4TSIエンジンについて、少し説明をしておこう。これまでの1.4TSIエンジンと大きく違うのはスーパーチャージャーのない、シングルターボとしていること。

もっともただシングルターボとしたわけではなく、ターボチャージャーを小径のものに変更したり、インテークマニホールド一体式の水冷インタークーラーを装着したり、渦流を作り出す吸気ポートを開発したり、さらに各部の軽量化を図ったりと、まさに涙ぐましいほど、効率を追求した仕上がりとなっている。

これにより低回転から大きなトルクを立ち上げることに成功。1500〜4000rpmで最大トルク200Nmを発生するというから大したものだ。ちなみに、最高出力は122ps/5000rpm、0→100km/h加速は9.4秒、最高速は195km/hと発表されている。

画像: メーターに配されたシフトインジケーターが7速であることを示す。これはマニュアル操作時のもので、D-Sポジションでは選択されているギアポジションが表示される。

メーターに配されたシフトインジケーターが7速であることを示す。これはマニュアル操作時のもので、D-Sポジションでは選択されているギアポジションが表示される。

さらなる効率を追求したTSIとDSGの組み合わせ

がっちりとしたT字型のシフトレバーをDレンジに入れて、まずオートマチックモードで走り出す。スロットルを踏み込むと、驚くほどのトルクを低速域から感じることができた。そのフィーリングは140ps仕様の1.4TSIと遜色のないほどである。しかも、5000rpm、そして6000rpmを過ぎてもこの伸びは続いていく。タコメーターは8000rpmまで刻まれ、レッドゾーンは6500rpmから始まっている。

忙しくクルマが行き交うバルセロナの市街地でも122ps仕様のTSIは交通を完全にリードできる。さらにバルセロナ郊外へ続く高速道路では、ちょっとした助走路で最高速度に到達するほどの高速での伸びを確認することができた。

フォルクスワーゲンは、そのダイナミック性能によほど自信があると見えて、郊外にあるワインディングがテストコースに含まれていた。それではと、シフトレバーをマュニアルモードにすると、インジケーターに1から7までの数字が並ぶ。やる気を起こさせる挑戦的なサインだ。1速から7速まで試してやろうではないか! という気になる。

1速はやや低めで、あっという間にレッドゾーンへ飛び込む。2速、3速、さらに4速と実にスムーズ、1枚ギアが増えただけでこれだけ滑らかになるのかと感激してしまうほどだ。乾式となったことで心配されたギクシャク感などまるでない。メルセデスの7Gトロニックとはまた違った、精密な感じがする。細かく巧みにシフトアップしていく感じだ。フロントにストラット、リアは4リンクのサスペンションがこれに応えるかのように、しっかりと路面を捉える。

この日のテストでは燃費は計測できなかったが、資料によれば市街地でリッターあたり13.0km、郊外で20.4km、総合で16.9kmと発表されている。ちなみにこの7速DSGによる燃費への貢献度はおよそ6%と言われている。122ps仕様1.4TSI+乾式7速DSGの組み合わせ、そしてEに代わるモデルというと、地味なクルマを想像されるかもしれないが、その走りは気持ちのいいもの。フォルクスワーゲンの環境適合車は走りの楽しみを決してないがしろにしていないのだ。(文:木村好宏/Motor Magazine 2008年3月号より)

ヒットの法則

フォルクスワーゲン 1.4TSI直噴ターボエンジン 主要諸元

●種類:直4DOHCターボ
●排気量:1389cc
●圧縮比:10.0
●ボア×ストローク:76.5×75.6mm
●最高出力:140ps/5600rpm
●最大トルク:220Nm/1500-4000rpm
●エンジン単体重量:131kg 

7速DSG 主要諸元

●最大許容トルク:250Nm
●最大許容出力 125kW
●ギア:前進7段/後進1段
●デュアルクラッチ:乾式
●ギア比1速:19.77
●ギア比トップ:1.85(7速)
●駆動方式:FFに対応
●重量:73kg
●オイル容量:1.7L

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