その気になれば超ホット、普段はクールなアウディ
自動車の世界でスポーツモデルが高級車の条件となって久しい。それと同時に、ブランド性が高まってゆく。
そういったことは個々のモデルラインアップだけではなく、もっと大きな枠組みの中でも起ころうとしている。たとえば、ポルシェとフォルクスワーゲングループ、である。
ゴールデンウイークの狭間、気持ちよく晴れ上がった平日、私はひとり、ブルーメタリックのアウディA5を駆って、東北道を北上していた。午後の、それもすでに15時を過ぎていたこともあってか、下りの東北道は3車線のコーナーをアウト・イン・アウトでも走れそうなほど、ガラ空きだった。それでも十秒に一度くらいは他車と遭遇する。前車に追いつくこともあれば、後車に煽られることもある。
そんな微量の流れの中を、できるだけブレーキを踏むことなく走り続けることができそうな速度帯を見つけてクルーズコントロールをセットし、左端の走行車線を一定速で流す。
この季節を待ちわびていた分だけ北の緑の方が鮮やかなのだろう。グリーンの様々なグラデーションが瑞々しく立体的に見えてくる。原稿に疲れた目が元気を取り戻すかのようだ。これぞグランドツーリングの気持ち良さ、ドライブ好きにとっては立派な癒し系だよなあ、とひとりで満足しながら、ふとあることに気がついた。
アウディというブランドの、特に6気筒以上の高性能エンジン搭載モデルには、こんな落ち着いたクルージングがよく似合う。青いプロペラやシルバーの星じゃ、こうはいかない。乗っている自分が、自意識が、それを許さない。ついつい頑張って走っているぞ感を見せつけたくなる。
いや、もちろんアウディだってガンガンに走ることは得意だ。クワトロモデルならば、天気を選ばず無敵に走ってくれる。シングルフレームグリルを手に入れてからは、押し出しも相当に派手に、立派になった。それこそ、代表的なドイツ車ブランドのように、そこのけそこのけと追い越し車線をかっ飛ぶことだって可能だ。
アウディが、例えばBMWやメルセデス・ベンツのように日本で台数を稼ぎたいのであれば、その技術力を前面に打ち出して、ヨーロッパのユーザーが実践しているように、イケイケどんどんに走る、という強面なイメージをもっと植えつけた方がいいと思う。その気になれば超ホットになれるが、普通はクールな、そんなブランドになる資質をアウディは十分に持っている。
アウディジャパンもそれはわかっているのだろうが、BMWやメルセデス・ベンツと同じ道は歩まないということだろう。それもあって、現在の日本市場におけるアウディはといえば、ブランドの立ち位置がまだ明確でないように見える。だからこそ、A5クワトロのようにスポーティなトップグレードに乗っていても(おそらくS5でも同じ気分になるはずだ)、こうやって心たおやかに、誰にも邪魔されることなく、ゆったりまったりと走ることができる。
ただゆっくり走るだけなら日本車にだってできそうだが、クルージングにも心地よいものとそうでないのがある。性能のレベルが高く、余裕があって初めて、本当の気持ち良さが出るものだ。
とにかく、今のアウディなら、たとえスーパーカーのR8であろうと、ドライブ最中の「全体の気分」を積極的に楽しむことができる。そう、A5のように格好のいい、そしていかにも速く走れそうな(もちろん、走れる)2ドアモデルならなおさらだ。
ただ単に運転を楽しむのでもなく、かといって過ぎる景色を楽しむわけでもない。もちろん目的は会話でもなければ、音楽などのエンターテイメントでもない。それらをすべてひっくるめて、格好いいクルマを流しているというドライブの「全体」。手足には機械の動きがわずかに、けれども確実に伝わり、意識はドライブに集中しながらも、視覚の隅で景色を何となく楽しんでいる。
鼻歌が自然と出る気分の良さ。アウディの、特に高性能エンジンを積んだスポーティモデルには、そういう楽しみ方もあると思う。