2008年、モデルサイクル半ばの997型911カレラ/カレラSが大きな進化を遂げた。そのポイントはデュアルクラッチ機構を備えたトランスミッションPDKと直噴ガソリンエンジンDFIの採用。フェイスリフトとは思えない大きな変更は話題となった。なぜ、911カレラ/カレラSはここで大胆な変更を行ったのか。この時、911カレラ/カレラSの走りはどれほど変わったのか。ドイツ・ヴァイザッハで行われたワークショップと国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年8月号より)

PDKに乗ると今までの常識が見事に覆される

試乗の前日に行われたワークショップでは、ヴァイザッハのテストコースを同乗走行するという体験もできた。実は、このテストコースでの同乗走行は2回目。現行911ターボのワークショップに参加したときも経験したが、その衝撃は911ターボの時に勝るとも劣らないものだった。

200km/h近くからのフルブレーキング、そして目の前に迫るコーナーをいとも簡単にクリアするその姿勢、さらにクリッピングポイントを超えてからのフル加速。どれをとっても不安定な要素をつゆほども見せず、終始安定した姿勢で走るのだ。その間、ドライバーはステアリングホイールから手を離すことなく備えられたボタンで、鼻歌が聞こえてきそうなほど楽々とギアチェンジのアップダウンを行っていた。

試乗は、カレラSカブリオレとカレラクーペ、トランスミッションは7速PDKである。カレラSはフロント235/35ZR19、リア295/30ZR19、カレラはフロント235/40ZR18、リア265/40ZR18インチタイヤを装着していたが、どちらもその走りはとても扱いやすいというのが第一印象だった。それも誤解を招かないようにしてほしいが「どんな状況でも」という注釈付きで、だ。

スポーツカー=扱いにくいといった図式は、911にはすでに存在することはなく、日本の公道で試乗してもそれは感じたことだが、平均スピードの低い日本の道では、持てるパフォーマンスの半分も発揮できないので、その実力を判断しにくい。しかし、ドイツのアウトバーンのようなハイスピードレンジではその扱いやすさと安心感をもたらす走りは特筆ものだった。

手に汗を握って運転するようなことはまったくなく、自然な流れに乗っているだけで200km/h近い速度で巡航しているのだ。自分では冷静に運転することを心がけて走っているつもりが、知らず知らずのうちに気持ちが高ぶっていたようだ。

では30km/hや50km/hという速度が要求される街中ではどうか。そんなシチュエーションでもカレラ/カレラSは、とても快適なのだ。スポーツカー=低速では不快という図式もすでに通用しない。今や、スポーツカーの常識は低速から高速まで快適で安心感あるものに進化している。カレラSは、19インチタイヤを履くにもかかわらず、乗り心地は高級サルーンの趣さえ見せていた。

新しく採用されたPDKは、微妙なアクセルワークを必要とする低速域でもギアチェンジはとても滑らか。さらにアクセルペダルを乱暴に踏みつけても、PDKは常に最適なギアポジションを選択している。その間、ギアチェンジのショックはほとんど感じることはなかった。

DFIエンジンも下から上まで滑らかに、そしてレスポンスよく回り、パワフルである。この組み合わせの粗探しをしてみたが、新しいカレラ/カレラSに不満な点を見つけることは、最後までできなかった。

ステアリングホイールからは、路面状況までが手に取るように伝わり、まさしく一級品。それは低速域から高速域まで変わることなく確実に伝わってくるこの感覚がポルシェのドライビングダイナミクスの真髄なのだと改めて感心させられた。

正直に言ってしまえば、今までは3.8Lエンジンを積んだカレラSのほうがパワフルでいい、と思っていたが、新しいカレラに限ってはその差は縮まっていると言える。つまりカレラでも十分にパワフルであるということ。いや十分以上といっていい。パワーアップと軽量化による恩恵は、カレラにより強く感じ、それは思った以上に大きいのだろう。

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