リアシートは余裕たっぷり、まるでビジネスクラスだ
試乗会のベースとなるホテルの前に日本人プレスを乗せた小型バスが着き、スーツケースを順番に降ろしていた。するとそのすぐ後に1台の見慣れないクルマが停まった。何気なく眼を向ける。「なんて伸びやかな美しいスタイルなのだろう」と、思わず見入ってしまう。「このクルマは何?」と、数秒ではあったが真剣に考えた。そして、これこそが今回のターゲットであるランチア デルタとわかったが、事前に持っていたイメージとは、かけ離れていた。
2006年パリサロンでの「デルタHPEコンセプト」と、2008年ジュネーブショーでの生産型を写真で見て知っているつもりだった。「ゴルフのようなCセグメントのハッチバック」と単純な理解をしていた。さらにデルタというと、どうしてもWRCで大活躍した初代のHFインテグラーレを思い出してしまい、それがまた新しいデルタに対して勝手なイメージを抱く原因になっていたようだ。
そう、目の前に現れた3代目デルタは、Cセグメントのこぢんまりした感じではなく、またモータースポーツのイメージとはほど遠い実に優雅で妖艶なものだったのだ。
後のプレゼンテーションなどで、これまでのイメージにとらわれていると理解できない「3代目デルタの本質」が明らかになってくるのだが、とにかくこの「美しい」という第一印象は強烈だった。
さて、その本質を順番に見ていこう。まず大きさについてだが、ランチアはこのクルマを「CDセグメント」であると言っている。全長が4520mm、ホイールベースは2700mmだが、他車と比べるとDセグメントの下に位置するというのが正確なところだ。ゴルフ(全長:4204mm、ホイールベース:2578mm)より、ひとまわり大きい。
プラットフォームはフィアット ブラーボと共用するが、ホイールベースはデルタの方が100mm長い。トレッドはブラーボとデルタは基本的に同じなので、自ずと走りの方向性がわかるというものだ。デルタはワインディングロードを攻めるというタイプではなく、ロングホイールベースのメリットを活かして、高速道路をゆったり流すのが得意なのだ。そもそも抱いていたイメージ、「Cセグメントのスポーティなクルマ」とは、まったく違うことがわかる。
スタイリングをじっくり見ていこう。ハッチバックともワゴンとも言い難いこのスタイルは「3カーズ in 1」だそうで、スポーツカー、エステート、サルーンが一体になったものであるとランチアは説明する。
ボディサイドを見るとリアドアの幅が広く大きいことがわかるが、これでオリジナリティにあふれた伸びやかさを実現している。そして、Cピラーからリアエンドにかけての造形は最大の見せ場で、このあたりのデザイン力には敬服するばかりだ。
また、こうしたボディスタイルにはツートンカラーがよく似合う。いや、ツートンのカラーリングによって、造形の良さが、より鮮明になっていると言ったほうがいいかも知れない。
先鋭的なエクステリアに対し、インテリアはどうなのか。ここには大いなる「意外性」があった。後席の居住性が非常によいのだ。リアドアが大きいのはデザイン上の都合だけではなかった。
実際に後席への乗降性は抜群に良く、また乗り込んで見ると、そのスペースの広さには驚かされる。リアシートは前後に10cmほどスライド調整が可能で、リクライニングもできる。いちばん後ろまで下げれば、前に足を投げ出してもフロントシートに触れることがないほど広い。さらにリクライニングさせれば、旅客機のビジネスクラス並みに寛ぐことができる。
ラゲッジスペースはリアシートのスライド量によって、380〜465Lとなっている。参考までにDセグメントワゴンのBMW 3シリーズツーリングのラゲッジスペースは460Lだ。デルタはさすがに全長が4520mmもあるので、たっぷりとしたスペースを確保することができた。4人乗車の長距離旅行は、ラゲッジスペースの面からも、またリアシートの居住性の面からも、デルタにとって大いなる得意科目と言えそうだ。