4Sであっても動力性能にまったく不満を覚えなかった
加速もまた凄まじい。ターボの分厚いトルク感はまさに911ターボを彷彿とさせるが、加速の様子というか印象は、内燃機関を積んだクルマとはひと味違う。BEVの方がアクセルペダル操作に対するレスポンスが鋭いのもそうなのだけれど、発進直後の加速度の立ち上がりがこれまでのエンジン車とはまったく違っていて、そのせいでSF映画に出てくる宇宙船のワープやテレポーテーションを連想する感覚を味わえる。これもまた、BEVが未来的だと思うもうひとつの理由である。
ターボと4Sの比較でいえば、やはりターボの方が力強く、加速力も一段上だが、ほとんどのドライバーにとっては4Sのパフォーマンスで十分以上だろう。
というわけで私は4Sに惹かれた。乗り心地のしなやかさ、荷重移動している実感が得られる点、そして動力性能にまったく不満を覚えなかったからだ。それに比べればターボは過剰な性能と言っていいが、過剰だから惹かれるという感覚もよく理解できる。したがってターボか4Sかはあくまでも好みの問題と結論づけられる。
徹頭徹尾、ポルシェの血統を受け継いだスポーツカーである
取材を終えて都内に向かう高速道路を走りながら、ふと気付いたことがあった。一般的にいって高回転域ではモーターの効率が低下するため、BEVは高速走行が苦手とされる。そうでなくとも、ここ数年ヨーロッパからやってきたBEVはいずれもSUVタイプで車高が高く、空気抵抗が大きい。
ところがタイカンはスポーツカーらしく全高は138cmである。そのおかげで空気を無理やり切り裂きながら走っている感覚が少なく、高速クルージングにもストレスを感じにくい。おまけに、電気で走るスポーツカーに乗るのはこれが初めて。つまりBEVの刺激とスポーツカーの刺激が重なり合って私はこれまで体験したことのない特別な高揚感を味わっていたのだ。これもまた冒頭に記した未来からやってきた乗り物、という幻想を抱いた理由のひとつでもある。
そう、やはりタイカンは徹頭徹尾スポーツカーであり、ポルシェの血統を正しく受け継いたモデルなのである。だから、タイカンはもちろん環境に優しいクルマではあるけれど、そこを第1に考える必要はない。ポルシェが作る刺激的なスポーツカーのパワープラントがたまたまモーターだった。それで十分ではないか。
おそらくタイカンのことが本当に気に入れば、充電環境をはじめとするさまざまな問題は些細なことにしか思えなくなるだろう。BEVにスポーツカーを掛け合わせたタイカンには、それくらい強烈な魅力があると思う。(文:大谷達也/写真:永元秀和)
ポルシェ タイカン ターボ<4S>主要諸元
●全長×全幅×全高=4965×1965×1380mm
●ホイールベース=2900mm
●車両重量=2340kg(2280kg)
●モーター最高出力=460kW(625ps)<320kw(435ps)>
●モーター最大トルク=850Nm<640Nm>※
●駆動方式=4WD
●車両価格(税込)=2023万1000円<1448万1000円>
※ローンチコントロール時