様々な価値を表現するニューモデルを続々投入
まずは近いうちにお目見えするのが、ゴルフヴァリアントのTSIトレンドライン、そしてパサートR36である。前者については、詳しい説明は不要だろう。リーズナブルなシングルチャージャーTSIエンジンと人気のヴァリアントの組み合わせは、販売に大きく貢献するに違いない。注目は、やはりパサートR36だ。
発表自体は随分前の話であり、クルマ自体も昨年の東京モーターショーで展示されていたくらいだから、ようやくのデビューと言える、このパサートR36は、ゴルフR32に次ぐ日本でのRライン第2弾。フォルクスワーゲン インディビデュアルが仕立てたスポーティなエクステリアの中身は、心臓として排気量を3.6Lに拡大して最高出力300psを得たV6ユニットを戴き、それにフルタイム4WDの4MOTIONを組み合わせている。
ヨーロッパでは、いわゆるDセグメントのベストセラーの地位をひた走るパサートも、ここ日本ではとくに現行モデルは今ひとつ振るわないというのが現状。イメージリーダー的モデルの登場が、存在感の底上げに繋がるかどうか注目と言える。ちなみに日本にはヴァリアントのみが導入されるようだ。セダンの領域は、後述するパサートCCが担うというわけである。
そして秋口には、今度はまったく新しいカテゴリーへの参入となるティグアンが発表されるはずだ。こちらも、やはり昨年のモーターショーで、すでにお披露目済みの1台。このコンパクトSUVがライバルと見据えるのは、言うまでもなくBMW X3だ。
ヨーロッパでは、このマーケットで今、もっとも熱い戦いが繰り広げられている。なにしろ市場はこの5年でほぼ倍になり、すでに年間60万台規模。しかも向こう3年で、まだ3割は拡大すると言われているのである。
全長4427mm×全幅1809mm×全高1686mmと、その中でも小型な部類に入るティグアンのベースはパサート。よって駆動方式はFFを基本とするハルデックス式フルタイム4WDだが、キックバックを嫌ってステアリング機構をボール&ナット式としたり、低速域での高いドライバビリティを実現するべく敢えて6速ATを採用したりと、単なるファッションではなくオフローダーとしても本物志向のところを見せている。トゥアレグもそうだが、このあたりの生真面目さは、いかにもフォルクスワーゲンらしい。
気がかりは、日本でこのジャンルにどれだけの市場があるのかということだ。まずはトゥアレグでは大き過ぎるという人がターゲットになるのだろうが、あるいはティグアンの場合、ゴルフからステップアップしたいけれど、フォルクスワーゲンの現行ラインアップには今ひとつ興味をそそられるクルマがないというユーザーの受け皿としての期待の方が大きいかもしれない。
しかし、そこでもっとも大きな役割を演じることになるのは、こちらのモデルではないだろうか。秋以降に導入と言われるパサートCCである。
ヨーロッパでのパサートCCは、若干ギャップが開き過ぎたパサートとフェートンの間を埋める存在として期待されている。一方、フェートンを持たないここ日本では、パサートでは飽き足らない層を吸引することが、その最大の任務となりそうだ。
コンフォート クーペを意味する車名の通り、そのフォルムは4ドアでありながらルーフが低く、そして前後のウインドウも大きく寝かされた、まさにクーペ。全長、全幅の拡大分は、ほぼすべてがデザインに割り振られている。しかし、元々優れたパッケージングを持つパサートがベースなだけに、それでも室内空間には十分な余裕がある。後席が2人用となることが不満なければ、セダンとして問題なく使える実用性が確保されていると言える。
しかも、減衰力可変式電子制御ダンパーのDCCアダプティブシャシコントロールの採用や、上級グレードのパサートR36と同じ最高出力300psを発生する3.6L V6ユニットの搭載などによって、高い快適性の獲得、そしてパサートとの差別化も抜かりなく行われている。フォルクスワーゲン=質実剛健と捉えるファンにとっては認め難いタイプのクルマなのかもしれないが、たとえばゴルフから3シリーズに乗り換えようと考えている人に、今度もフォルクスワーゲンにしようかと思わせるだけのものが、そこに備わっているのも確かだろう。