2008年、セダンの登場してから4カ月、アウディA4の本命とも言うべき「アバント」が日本にやってきた。Motor Magazine誌はA4アバント上陸を機にワゴン特集を企画、A4アバント 3.2FSIクワトロと1.8TFSIを連れ出して試乗テストを行っている。今回はその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年10月号より)

車体後半部の重量が増して安定感に満ちた走りが実現

一般道の印象は、実はこの2グレードで結構異なるものだった。まず1.8TFSIは、全般に良く言えば軽快、悪く言えば落ち着きを欠くという印象。たとえばアクセルペダル操作の反応が鋭いのはいいが、発進の際など繊細に操作したつもりでもドッと前に出てしまうし、シャシも、ステアリングは操舵力がきわめて軽くセンターの締まり感が乏しいし、操舵に対するゲインの高まりも、やや急に感じられる。

実際、エンジンは低回転域からきわめてトルクフルで、マルチトロニックもその特性をよく引き出し、どこからも力強く滑らかに加速できるし、旋回性だって素直で悪くないのだ。余計な演出など本来は不要なはずである。

そこへいくと3.2FSIクワトロは「これぞアウディ」と膝を打つ上質なフィーリングを堪能できる。ステアリングの切りはじめこそ、やはり軽過ぎる感触に戸惑うものの、その先では掌に適度な反力が伝わってくる。ダイナミックステアリングのおかげでノーズの入りは明らかに俊敏なのに、そこに違和感はなく、きわめて自然なリズムで曲がることができるのだ。乗り心地も、サスペンションの動き出しが滑らかで、やはり質の高さを感じさせる。

高速道路に入っても好印象に変化はない。速度を上げるほどに車体の上下動がピタッと落ち着き、まさに矢のように突き進む様は、まさに圧巻。これだけシャシが盤石だと、エンジンの良さも存分に味わえる。実用域で力強いだけでなく吹け上がりのキメが細かく、そして回せばレッドゾーンを飛び越えて7000rpmまでキレイに伸びる特性は、アウディに期待する上質なスポーティさに満ちている。

この乗り味には、アウディドライブセレクトに含まれる電子制御式減衰力可変ダンパーはもちろん、前後重量配分が改善され、素性としてピッチングが抑えられたことも効いているに違いない。さらに言えばアバントは車体後半部の重量が増していることから、前後重量配分がさらに最適値に近づいているはず。よって1.8TFSIも、とくに速度を上げていった時には、ちょろちょろとした動きが姿を潜めて、アウディに期待する安定感に満ちた走りを享受することができる。

今回はサーキットでも試すことができた。ここで印象的だったのは、まず1.8TFSIが、回転が落ち込んでもアクセルオンで即座に分厚いトルクを発生すること。ペダルワークさえ繊細に行えば、これが実に頼りになる。一方の3.2FSIクワトロは、やはりクワトロの懐の深さに尽きる。ESPオフの状態で進入したコーナーでリバースした時も、どんなに深いアングルがついていようと、強力なトラクションで決してスピンモードに入らせないのだ。一度これを味わうと、クワトロ以外あり得ないという気にさせられてしまう。

ひとつ贅沢を言うならば、その走りにアウディならではの味わいが、もっと色濃く反映されていればなお良いと思う。そのシャシセッティングが、一時の迷いを脱して進むべき方向を確実なものにしてきていることは間違いないだけに、もう少し輪郭のハッキリした個性が感じられれば、さらに魅力が増すと思うのだ。

画像: 上質な走りを見せた3.2FSIクワトロ。サスペンションの動き出しが滑らかで、質の高さを感じられる。

上質な走りを見せた3.2FSIクワトロ。サスペンションの動き出しが滑らかで、質の高さを感じられる。

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