DCTはMTの進化型という性格を走りで証明
そんなBMW初のDCTを採用したM3の走りは、おおよそ期待通りの印象だった。スタートの瞬間は、やはり「ニュートラル」の状態からアクセルペダルを踏み込むと、コツンと来るショックが多少気になる。前車に続いて停車する際に、やや広めの車間をキープ。2台前のクルマが動き出した時点で「アクセルクリック」により、まずはクリープ力を発生させ、タイヤが転がり始めた時点でアクセルペダルに静かに力を加える。これが、DCTのM3をスムーズにスタートさせるコツになる。
定常加速シーンでのアップシフトの巧みさはDCTの最も得意とするところで、それはもちろんこのモデルの場合も例外ではない。多少ながらもギアノイズが耳に届くのは、M3というスポーツモデルのキャラクターも考えてのことか。もちろんそれは気になるレベルではなく、M3の「高級ツアラーに相応しい上質感の持ち主」という評価に、いささかの揺らぎももたらすものではない。
ところで、M3のDCTには「ドライブロジック」という名称の付加機能が標準装備される。セレクターレバー手前のスイッチを押すことにより、「各種の走行プログラムが選択できる」と謳われるのがこのシステムだ。
自動変速を行うDレンジをチョイスした場合、この操作で変更されるのはシフトのプログラミング。スイッチを押すと上位ギアへの変速ポイントがエンジン回転数の高い側へと移動し、「D-1」から「D-5」へと近づくほどに、よりスポーティな設定へと変更される。
ただし、最もマイルドな「D-1」を選択すると、ここでは自動的に2速発進を選択。説明書中ではこのポジションも常用可能とされるものの、実際にはやはりスタートの力感が不足気味となるのは否めない。その次の「D-2」を選択すると、緩加速時には50km/hで6速、60km/hで7速とシフトアップされる。ただしパドル操作で強制的にアップシフトを促すと、実は45km/h付近ですでに7速ギアへと入る設定。すなわち、事実上で「最も大人しい」プログラムでも、まだ加速力重視の態勢を堅持しているのがこのプログラミングの特徴なのだ。
一方、シーケンシャルモードのSレンジを選択すると、変速作業は完全にドライバーへ一任される。8400rpmと、4Lという大排気量を忘れさせるほどに高いレブリミットに近づいても、オートアップシフトは行われない。あくまで「MTの一種」というキャラクターが、このDCTには与えられているのだ。
ドライバーの操作をサポートするべく新設されたのが「シフトライト」。黄色と赤色の8セグメントLEDから成るレブインジケーターだが、実は低いギアではこれを注視していても、レブリミッターにタッチさせてしまう事態が多発しそうだ。
前述のようにギア比が細かく刻まれた「7速MT」では、たとえパドルが採用されたとは言っても、フル加速時にはシフトアップのための操作が猛烈に忙しい。それゆえ、全力加速のシーンではどうしてもオートアップシフトの機能が欲しくなる。
現状では手前側がアップ、向こう側がダウンというフロアレバーのシーケンシャルシフトの操作方向設定を含め、このあたりは何とかユーザー好みの任意設定を選ばせてもらえるようにならないだろうか。
ところで、こうしたSモードを使用中に前出のドライブロジックを操作すると、そのスイッチを押す回数が増えるほどに「シフトのシャープさ」が増すように感じた。端的に言えば、シフト時のショックが増してギアの切り替わり感が明確になる。
DSC(ESC)をオフした際にのみ使用可能な「S-6」(ローンチコントロール機能はこのポジションでのみ使用可能)では特にそれが顕著で、ウエット路面であればそのショックをきっかけにスピンすら誘発しかねないのでは、と思えるほど。
ただし、こうしたスイッチ操作が実際にDCTのクラッチワークを速めているか否かは、資料上からは確認できなかった。「むしろSモード時のスイッチ操作は、フィーリング演出面での違いが大きい」と、体感上ではそのようにも思えたのだが。