2008年、4代目E92型BMW M3クーぺにM-DCT(デュアルクラッチトランスミッション)が搭載されて大きな話題を呼んだ。CO2排出量の問題が叫ばれる中、高回転まで瞬時に、切れ目なく効率よくパワーを伝達する独自の革新的なメカニズムは、ひとつの「切り札」になると言われた。Motor Magazine誌はそのテクノロジーに注目、上陸間もないM3クーぺ M-DCTのフルテストを敢行している。今回はその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年10月号より)

明確に革新的な効果とロジックの改善余地

かくして、もはやシフト動作の速さではMTに明確な差を設け、加減速のスムーズさという点でも圧倒的な強さを味わわせてくれたM3のDCT。が、実はそれにも100%の満足感が得られたというわけではなかった。まず、テストドライブ中に最も気になったのは、パドルの操作に対して実際のシフト動作が遅れる感覚を受けたことだ。

もちろん、その「遅れ」はほんのわずかに過ぎない。しかし、シャープな切れ味が売り物のエンジンを組み合わせているからか、むしろこれまで経験した他のDCT車よりも、このポイントが大きく気になってしまったのは事実だ。

そして、前述のように「S」モードの全力加速では、低位ギアでのアップシフトのマニュアル操作が追いつかないというのも問題。これは、高回転型エンジンに比較的低いギア比の駆動系を組み合わせるため、エンジン回転数の上昇が極めて素早いという「M3特有」の事情も関係しているだろう。この解決には、オートシフトアップのモードと完全なるマニュアル操作のモードを、好みに応じてより素早く、簡単に切り替えられるロジックが用意されていても良いように思う。

いや、そうしたロジックについては強い拘りを持つ「M社」のこと。恐らく、すでに何らかの改善策を考えつつあるに違いない。

それにしても、革新のトランスミッションを手に入れて、その魅力にますます磨きが掛けられたM3。現在、「旧世代のSMG」のままに販売が続けられている兄貴分であるM5/M6の今後の成り行きを含めてこのDCTは、色々な面で目を離せなくなってきたBMWのダイナミクステクノロジーの最右翼である。(文:河村康彦/写真:小平寛)

画像: 湿式ダブルクラッチが組み合わされるM DCTはゲトラグ社製(湿式ダブルクラッチはボルグワーナー社製)。iDriveのメニューからセッティングを呼び出すと、Mドライブの設定画面となる。ここで「M」ボタンで瞬時に呼び出せる各項目のプリセットを行うことができる。ちなみに「DKG」は「DCT」のドイツ語表記。

湿式ダブルクラッチが組み合わされるM DCTはゲトラグ社製(湿式ダブルクラッチはボルグワーナー社製)。iDriveのメニューからセッティングを呼び出すと、Mドライブの設定画面となる。ここで「M」ボタンで瞬時に呼び出せる各項目のプリセットを行うことができる。ちなみに「DKG」は「DCT」のドイツ語表記。

BMW M3クーペ M DCT 主要諸元

●全長×全幅×全高:4620×1805×1425mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1650kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:3999cc
●最高出力:309kW(420ps)/8300rpm
●最大トルク:400Nm/3900rpm
●トランスミッション:7速DCT(M DCT)
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・60L
●10・15モード燃費:8.0km/L
●タイヤサイズ:前245/40ZR18、後265/40ZR18
●最高速度:250km/h (リミッター)
●0→100km/h加速:4.6秒
●車両価格(税込):1050万円(2008年当時)

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