1974年にデビュー以来、コンパクトFF車のベンチマークであり続けるフォルクスワーゲン ゴルフ。日本でも間もなく8代目となる新型が発表されるが、その前に初代から現行型までのゴルフを振り返ってみたい。今回は、5代目ゴルフについて語ろう。
ゴルフ5から採用された「ワッペングリル」
もうひとつ特筆すべきが、高出力系モデルや高価格モデルに、ベースモデルとは別のフロントマスクが与えられたことである。ベースモデルが従来同様に横基調のグリルだったのに対し、上位モデルではバンパー下にあるアンダーグリルまでをつなげて、縦長に見えるグリルデザインを採用した。これは、フォルクスワーゲン ブランド強化の動きから出てきたもので、ちょうど同じ頃、上級ブランドのアウディでも、シングルフレームグリルと呼ぶ主張の強い縦長のグリルが新しく導入されようとしていた。
「ブランドの顔」をつくる動きはこのころ業界で目立っており、フォルクスワーゲンも元来が大衆車でありながらブランド志向を強めたのだ。このデザインは、ビートルのオマージュである。ボンネット左右にまで伸びるプレスラインと合わせて、正面から見てU字型を描いているが(メーカーではV字と言った)、これはビートルのフロントフードに範をとったものだった。
ゴルフ4ではゴルフ1のオマージュだったのが、新たにフォルクスワーゲン ブランドでビートルを尊重するデザインになったので、ゴルフもそれに従ったわけである。このグリルは「ワッペングリル」と呼ばれた。ワッペンとは、ドイツでは伝統ある盾型の紋章のことを言う。
だが、このワッペングリルは、ゴルフでは一世代かぎりで終わってしまう。それはデザイン上の問題だけでなく、ゴルフ4以来の高級化志向が仇となり高価格傾向になるなどして、業績が悪化したことが背景にある。これについては、ゴルフ6の回で詳しくふりかえりたい。(文:武田 隆)