走りやスタイリングで尖った魅力を主張し始めたボルボ
「なるほど、ボルボもついにこの領域に足を踏み入れたか」。10月上旬、スペインはバレンシア地方で開催された国際試乗会でXC60のハンドルを握った時の第一印象がこれだ。
今までのボルボは、Rシリーズなど一部に例外はあったものの、基本的にマイルドなハンドリングと重厚な乗り心地を味わいの中心に据えてきたと言っていいと思う。
しかしXC60はこれらと明確に趣きを変えている。ロール剛性をかなり高めているのは間違いなく、ハンドルを切り込んでからヨーが立ち上がるまでの「溜め」があったハンドリングは、「打てば響く」系のキビキビとしたものとなった。ロックtoロックは3回転でいたずらにクイックにはしていないものの、スペイン特有の狭くトリッキーなワインディングをフラットな姿勢を保ったままグイグイとクリアして行く様は、今までのS80やV70/XC70にはなかった味わいである。
XC60は、伸張著しいプレミアムコンパクトSUV市場にボルボが送り出すブランニューモデルだ。先行するBMW X3を追う役目を担うのは、アウディQ5やメルセデス・ベンツGLKなど時を前後して各社が投入するニューモデルと同じ。となれば、その手頃なサイズ感が都市部での扱いを容易にするというこのクラスの特質上、よりオンロードを重視した味付けになるのは十分理解できるのだが、それにしても癒し系の持ち味を特徴としていたボルボがここまで「激しい」セッティングとなったのはかなり意外だった。
同じことはスタリングにも言える。厚みのあるショルダーや、ノーズからボンネットにかけてV字を描くラインなど、ボルボ流のこれまでのデザイン言語は踏襲しているものの、絞り込みの強いノーズ&テールエンド、クーペのようにスリークなガラスエリア、深い陰影を持つサイドパネルなど、情緒面に強く訴えかける塊り感の強いフォルムは、水平基調の落ち着いた佇まいとスペーシャス感を特徴としていた従来のボルボデザインとは違った道を歩み始めたようにも見える。
インテリアも、後方が空間で宙に浮いたようなフローティングセンタースタックや、3分割のリアシートなど近年のボルボの作りを維持しながら、センターコンソールがドライバー側にやや偏向したり、この最上段にナビ画面をビルトインするなど、各部に新しい試みが見られる。
こうしたスタイリングは、メルセデス・ベンツから移籍しボルボのデザインを統括するスティーブ・マッティンが初めて一から手がけたもの。曲線を多用した魅力的なテールエンドにSLを手がけた彼らしさを発見できるし、フロントのエンブレムも以前より確実に大きくなって、きっちりとボルボであることを主張している。
そうなのだ、走りにおいてもスタイリングにしても、尖った魅力を強力に主張し始めたのが、ボルボラインアップの中におけるXC60の新しさなのである。
ちなみに、XC60のプラットフォームはP2、つまりS80やV70系と同じ、直列5/6気筒、最大ではV8を横置きする大型車向けのシャシである。同じ構成のSUVとして同社の屋台骨を支えるXC90がすでにラインアップされることもあり、弟分のXC60ではこれと明確に異なるテイストを打ち出す必要があった。その代表的な例が冒頭に述べたニンブルな走りというわけである。
同様に乗り心地も大きく変わった。サスペンションはバネレートをXC70に対し10%も上げ、相応にダンパーやブッシュ類も強化している。タイヤは235/60R18のピレリPゼロ・ロッソ。この辺からもオンロード志向がいかに高いかがわかる。
乗り心地の印象を記せば相当にハードで、とくに荒れた路面では突き上げを正確に伝えてくる。入力を一発でいなす質の高い硬さに総合的なサスの強化と、それを支える新プラットフォームの剛性の高さが伺えるものの、微小ストローク域にもう少ししなやかさが欲しい。このあたりは走りに目覚めた新生ボルボの今後の課題となる部分かも知れない。
今回の試乗車は装着していなかったが、XC60にもダンピングを3モードに切り替えられるFour-Cシャシの設定がある。最近のクルマはこの種の可変機構で乗り心地と運動性能の折り合いを上手く付けることも多いので、日本導入時の仕様設定も含め今後に期待したい。
さて、ここまでXC60がこれまでのボルボからいかに変わったかを中心に述べてきたが、もちろん変わらなかった部分も多い。