進化を重ねて第6世代。M4はFRの限界に挑戦
1980年代の欧州で活況を呈したツーリングカー選手権を制することを目的に、「戦うクルマ」として開発されたのが初代BMW M3。当初はセダンのみで構成されたM3に、新たなバリエーションとして加えられたクーペがM4の名称で独立したモデルとして扱われるようになって久しい。それでももちろん、そこに採用されるランニングコンポーネンツは共通という両者の深い血縁関係は、いささかの変わりもない。
コンペティティブな2.3L直4エンジンを搭載した初代M3だが、その後の歴代モデルにおける心臓の変遷ぶりは、シリンダー数も排気量も実に多彩だ。時代の流れを鑑みつつ、ユーザーの成長も踏まえながら「臨機応変」に心臓部の姿を変えていく。それは、実は歴代M3/M4シリーズにあってももっとも特徴的なポイントと紹介してもいいように思える。
当初は「戦うこと」を最優先にさまざまなスペックが決定されたものの、時間の経過と共に「最上のプレジャーを提供するドライビングマシーン」としてのキャラクターが強まり、それに相応しいディメンジョンが次々構築されたこともまた、歴代モデルの特徴だ。
そうした中にあってひとつの転機を迎えたのが、2013年末に発表された先代モデルだった。4代目で採用されたV型8気筒エンジンを、再び直列6気筒デザインへと戻して搭載したF80である。排気量を大幅にシュリンクさせる一方で、2基のターボチャージャーを装着。すなわち第5世代となるこのモデルのフード下には、M3系では初となる過給機付きの心臓が収められたのである。
要請が高まった燃費の改善を成し遂げながら、モデルチェンジでの必達事項でもある出力の向上も必要となれば、過給機のアドオンはもはや避けられなかった。そして、先代のエンジンを改良して登場したのが、日本では2021年1月に発表されたばかりの、最新型M3/M4シリーズである。
今回試乗したのはM4クーペ コンペティション。その鮮烈な走りは別項にてたっぷりと紹介のとおり。当初はFRレイアウトの持ち主として導入されるものの、追って歴代モデルとして初の4WDバージョンの追加が明らかにされているのも大きなトピックのひとつ。
実際、ワインディングロードを駆け巡ると、ドライ路面ですらトラクション能力が限界を迎えてしまうシーンもたびたび。まあそれはそれで楽しいのだが、エンジンの高出力もさることながら、出力比で大きなトルクを生み出すターボ付きエンジンの特性ゆえ、最近のターボ付きハイパフォーマンスモデルでは4WDシャシの必要性が急速に高まっていることを、再認識させられた。