タイヤの性能を限界まで出せば上手なドライビングか?
またハイパワーの後輪駆動車で無理矢理パワーをかければ、前に進むのではなくパワースライドして最悪の場合はスピン!ということにもなりかねない。
摩擦円で勘違いしやすいのが、加減速時の縦方向のグリップ力とコーナリング時の横方向のグリップ力の関係。たとえば「ブレーキングで80%の力を使うと、コーナリングに20%の力しか使えない」と足し算で考えてしまうことだ。
これは「摩擦円の基本」の図を見てもらえばわかることなのだが、(A)ブレーキ力と(B)コーナリング力の合力が摩擦円の限界となるために、足し算ではない。要するに三角形の各辺の長さを求める式となる。上図のように(A)ブレーキングで80%の力を使った時の(B)コーナリング力を知る場合、(B)は(C)の二乗から(A)の二乗を引いた値の平方根となり、コーナリング力60%となる。
これからわかることはブレーキ力を本当にぎりぎりいっぱいまで使っていなければ、意外とステアリングも効くし、コーナーもある程度余裕を残していれば慎重なブレーキングで減速できるということだ。万が一のときにも諦めなければなんとかなる可能性があるとも言えるだろう。スピンしそうなときにはブレーキだけでも踏み続ければ、ぎりぎりでセーフということもありうる。
摩擦円の中の力も、ただやみくもに限界まで出せば上手なドライビングか?と言えば、そういうわけでもない。ドカンとブレーキングをして、ズバッとステアリングを切ったりすると、クルマの姿勢が非常に不安定になって危険でもある。
加速方向、減速方向、コーナリング方向の力の動きはG(重力加速度)の動きと言い換えても良く、前後左右だけでなく、その過渡領域を含めて、その時の摩擦円の限界近くをスムーズにつなげていくのが上手で速いドライビングと言える。
クルマの速さというのは、最終的にはタイヤと路面の関係によって決まる。いくら大パワーのクルマでも、しっかり路面をグリップをしなければ、それを活かすことはできない。
またアンダーパワーのクルマでも、ツイスティーなコースで上手なドライバーがタイヤの持てる能力を引き出して使えば、意外な速さを見せることがあるわけだ。こんなことを考えながらドライビングすると、新たな発見もあるかもしれない。(文:Webモーターマガジン編集部 飯嶋洋治/イラスト:きむらとしあき)