変速の素早さや多段化などDCTにメリットが多い
そんな335iセダンから、「7速スポーツAT」を謳うDCTを搭載した335iのクーペに乗り換える。
名称から察すると、いかにもキビキビとした挙動を示してくれそうにも思えるが、実はスタートの瞬間のホンのタイヤのひと転がりといったゾーンでは、むしろセダンの6速ATよりもマイルドな感覚を味わわせる。
2組のクラッチシステムで単純な断続動作を担うDCTでは、トルク増幅効果を得ることはできない。そうした事情がこうしたテイストに繋がっている可能性は高いだろう。もちろん、アクセルペダルを深く踏み込めば、当然シャープな加速力を即座に得ることができる。が、そんな素早い加速を意識しないシーンでは、むしろ335iセダンよりもマイルドな出足に終始するのが335iクーペなのだ。
このあたりのキャラクターは、両車で意外なほどに大きく異なっている。とくに上り坂発進では、より際立つ力強さを実感できるのは335iセダンの方だ。
クリープ現象が弱いのも、DCTのひとつの特徴となる。ただ、クリープ現象そのものを「微低速での移動に便利なもの」と受け取るか、あるいは「停止後にも駆動力をブレーキで抑制しておかなければならない厄介なもの」と受け取るかで、その評価は大きく分かれることになるだろう。
例えば、同じDCT採用車でもM3では敢えてこの機能を省略しているが、それはM3ではDCTを「MTの発展形」として捉えているからに他ならないわけだ。
一方で、335iクーペに搭載のDCTがクリープ現象付きなのは、それが「スポーツAT」を名乗るだけに当然ということになる。ちなみに、クリープ現象にはあらかじめ駆動系全体に弱いトルクを掛けておくことでバックラッシュを取り除くという効用もある。それを知っているからこそ、M3の場合も、「快適性向上に効果がある」という理由に基づいて、静止時にアクセルペダルを軽くクリックするとクリープ現象を発生させるというロジックを有しているのだ。
さらに、基本構造をMTと同じとしながら、多段化を可能とするのもDCTならではの特徴だ。335iクーペが搭載するDCTは7速だが、もしもこれを通常のMTで操作しようとすればそのシフトパターンは縦(前後)方向が4列になってしまう。そんな「Hパターン」は机上では成立しても、現実的にはとても生身の人間では操作できない代物になってしまうに違いない。
すなわち、伝達効率に優れるというMTならではの特徴を生かしつつ7つ以上のポジションを用意して変速レンジの拡大とギア間ステップ比の縮小を同時に実現させるためには、現状ではDCT以外考えられないのだ。
そんな7速DCTを採用した335iクーペの走りは、まさにDCTの特徴が実感できるものだった。交差点を渡り切るまでの間に、1速から4速までシフトアップといった芸当は、通常のMTでは到底望み得ないもの。しかも、それを完全にシームレスで行ってしまうのだから、その仕事ぶりには恐れ入る。
そしてこのモデルの場合、100km/h走行時のエンジン回転数は5速が2800rpm、6速が2500rpm、7速が2100rpmとやはりステップ比の小ささが際立っている。ちなみに、335iクーペで用いられた各ギア比をM3用DCTと比較すると、ギア比は同一で、ファイナルのみが2割ほど高い。
加速を意識しないシーンではマイルドな面も見せるが、DCTがメリハリの効いた変速クオリティの持ち主であるのは間違いない。走行中、アクセルペダルを軽く踏み加えた際の加速G立ち上がりのレスポンスや、キックダウンが行われた際の加速体勢に入るまでのタイムラグの小ささが持ち味となる。DCTが「よりクーペに相応しいトランスミッション」というBMWの判断は、確かに理にかなったものと納得することができる。