MTでしか得られないもの、それは微妙なクラッチ制御
多数が用意されたギアの中から、電光石火の素早さで「必要なギアを選択する」という機能は、DCTの独壇場だ。このギアセレクトの素早さでは、通常のMTもトルコンATもとても敵わない。
一方で、どのようなシチュエーションでもかくも見事なシフトワークを遂行することが、かえって「FUNではない!」と感じる人もいるかも知れない。DCTがいかに素早い変速を可能としても、それはあくまでも走りの状況を踏まえた上でのフィードバック制御にしか過ぎず、ドライバーの予想によって様々なギア位置の選択や微妙なクラッチワークを行うという「予測制御」が可能になるMTのようなわけにはいかないのも、「FUNではない!」ひとつの要因とも言えそうだ。
もっとも、同じエンジンを搭載しながらセダンにはトルコンAT、クーペにはDCTという現在のこのBMWのラインアップは、この先長く続くとは思えないというのが実は個人的な見解でもある。何故ならば、いかに走りの個性を重んじ、ドライビングの楽しさを追求するBMW車といえども、量販メーカーが行うクルマづくりの方法としては、こうした設定は余りに非効率に過ぎると思えるからだ。
実際、BMWがDCTをリリースした当初、彼らは「トルコンATとDCTは『適材適車』に使い分けるが、顧客の混乱を招くので同一車種で両者を同時に並列設定することはしない」とコメントしていた。それゆえ、あるいは、サプライヤーとの契約による、何らかの「暫定的な措置」という可能性も否定はできない。
335iクーペに組み合わされたDCTの仕上がり具合を見る限り、このユニットが現状のプログラムのままセダンに組み合わされたとしても何の不都合もない。加えて欧州で価格を検証してみると、6速トルコンATと7速DCTのコストはほとんど同じ。両者をいつまでも並列に設定しておくのは、いかにも不自然と考えられる。
少なくとも、BMW車のスポーティモデルの2ペダルトランスミッションは「いずれDCTに統合されて行く」というのが、自分なりに出した結論ということになる。(文:河村康彦/写真:小平 寛)
BMW 335i セダン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4540×1800×1440mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1620kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:225kW(306ps)/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300〜5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・60L
●10・15モード燃費:8.9km/L
●タイヤサイズ:225/45R17
●車両価格:673万円(2009年当時)
BMW 335i クーペ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4590×1780×1380mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1630kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:225kW(306ps)/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300〜5000rpm
●トランスミッション:7速DCT(7速スポーツAT)
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・60L
●10・15モード燃費:8.9km/L
●タイヤサイズ:前225/45R17、後255/40R17
●車両価格:713万円(2009年当時)
BMW 135iクーペ Mスポーツ(6速MT) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4370×1750×1410mm
●ホイールベース:2660mm
●車両重量:1530kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:225kW(306ps)/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300〜5000rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・50L
●10・15モード燃費:9.4km/L
●タイヤサイズ:前215/40R18 後245/35R18
●車両価格:549万円(2009年当時)