ダブルウイッシュボーン式はレーシングカー御用達のサスペンション
マクファーソンストラット式と並び、代表的な独立懸架式がダブルウイッシュボーン式だ。基本はアッパーとロワの2つのAアーム(形状がアルファベットの「A」に似ていることからこう呼ばれる)が使われ、「A」の頂点側にハブナックルが、底辺側にボディがつながる(逆Aアームの場合もある)。いずれにしろ進行方向から両アームを見ると、四角で閉じた構造となるために、剛性を高くできるという特徴がある。
■ダブルウイッシュボーン式サスペンションの構成
サスペンションの動きから見ると、上下アームが平行で等長ならばサスペンションの上下動によるキャンバー変化もない。ただし、実際にこう設計してしまうと、上下動することによりタイヤのトレッド方向(トレッド幅)の変化が大きくなってしまい、動きの面でもタイヤの耐摩耗性能の面でも良くない。
そこで、アームを平行ではなくハブナックル側を広く、アーム長もロアーアームを長くとり、サスペンションが上下したときに敢えてキャンバー変化が起きるようにして、トレッドの変化も抑えるというバランスを取るようにしたものが多い。
サスペンション本体の剛性において、アッパーアームのないマクファーソンストラット式は、ストラットに横力を受けるとショックアブソーバーの動きを阻害してしまう。これに対してダブルウイッシュボーンは横力の影響を受けず、設計どおりの性能を確保するという大きなメリットを持つ。
また、適正なジオメトリーとすることで、コーナリング時にタイヤの接地角が良くなり、速いコーナリングをできることなどから、もともとはフォーミュラーカーをはじめとするレーシングカーに用いられてきた構造でもある。
デメリットは、部品点数が多くなるためにどうしても高コストになってしまうこと。また、Aアームが長いほどジオメトリー変化を小さくできるのだが、フロントエンジンの乗用車の場合、スペース制限から理想的なカタチにできないことなどがある。
その解決策のひとつとしてホンダのFF車(横置きエンジン)で実用化したのは、アッパーアームを湾曲させてボディ側取り付け位置を高めることで成り立たせたという技術である。この場合、サスペンションストロークが短くなるというデメリットもあった。
現在、複雑なリンク機構によって成り立たせるマルチリンク式が多くなっているが、これはダブルウイッシュボーンを進化させたものという考え方もできる。そういう意味で普遍的な高性能サスペンション形式がダブルウイッシュボーンである、と言えるだろう。(文:Webモーターマガジン編集部 飯嶋洋治)