ブリティッシュ12シリンダーに学ぶ、ジキルとハイドの美学
12気筒エンジンはなにも、イタリアンスーパーカーブランドの専売特許ではない。ジョンブルの国、イギリスにも、シリンダーの名機を積んだスポーツモデルたちが存在する。
その「雄」のひとつはもちろん、アストンマーティンだ。現時点におけるフラッグシップモデルのDBS(スーパーレッジェーラ)と、中核を担うDB11(AMR)には独ケルンのAMPE(アストンマーティン エンジンプラント)において自社生産されている、5.2L 60度 V12ツインターボエンジン=AE31が搭載されているのである。
アストンマーティン用のV12エンジンといえば、初代V12ヴァンキッシュに搭載されたAE28ユニットがまずは思い出されるだろう。フォードのデュラテックV6に由来する自然吸気エンジンで、以来、復活したアストンマーティンのシンボリックな心臓部として人気を集めてきた。
対するAE31エンジンは、アストンマーティンの設計開発によるもの。むやみにパワーを追求せず、12気筒の持つ機械的メリット=バランスを生かしつつも英国のハイエンドスポーツカーに相応しい荒々しさまでもあわせ持つ、まさにジョンブルの心臓に相応しいV12エンジンだ。
中でもサウンドが素晴らしい。初代V12ヴァンキッシュは、スーパースポーツカー界のツルシのモデル(市販そのもの)に「サウンド革命」をもたらしたことでつとに知られている。その後のアストン12気筒モデルはすべて、そうしたたくましいサウンドの血統を引き継いでいるのだった。
さらにアストンマーティンは今、名門コスワースとともに6.5Lの65度 V12エンジンを開発し終えており、マイルドハイブリッドシステムを加えて限定車ヴァルキリーに搭載する。こちらも楽しみだが、このようにピュアな英国産のエンジンには、必ずと言っていいほどコスワースの影がちらつくことも覚えておいていい。
技術的合理性とは無関係に生まれた圧倒的滑らかさ
ロールスロイスにも12気筒エンジンが積まれているが、スポーツモデルとなればもうひとつの超高級ブランドも忘れてはいけない。ベントレーの12気筒エンジンもまたジャーマンブランドに由来するが、その仕組みは極めてユニークで、複雑怪奇である。
型式はWR12である。実を言うと、フォルクスワーゲン&アウディグループがなぜW12エンジンにこだわり、これまで開発と改良を続けてきたのか、明確な理由は定かではない。バンク角15度という初期のWR6ユニットをひとつのバンク(狭角エンジンはそもそもヘッドもひとつ)に見立て、それを二機、72度の挟み角でつなげたW12の構造は決して、V6モジュールをふたつ繋げたなどとは表現できないほどに複雑である。
そもそもストレート6をふたつ並べて完璧なバランスをもたらすという、V12エンジンほどのメカニズム的な合理性がない。
無理に無理を重ねた結果、でき上がった「作品」というべきで、それを考えるとWR12エンジンの圧倒的に滑らかなあのフィールが信じがたいほどだ。それはまさに、尽くされた人知=フェルディナント・ピエヒの執念を味わうべき、12気筒とも言えるだろう。(文:西川 淳/写真:小平 寛、永元秀和、井上雅行)
アストンマーティン DBS ヴォランテ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4712×1968×1295mm
●エンジン:V12 DOHCツインターボ
●総排気量:5204cc
●最高出力:533kW(725ps)/6500rpm
●最大トルク:900Nm/1800-5000rpm
●トランスミッション:8速AT
●車両価格(税込):3878万円
ベントレー コンチネンタルGT マリナー 主要諸元
●全長×全幅×全高:4880×1965×1405mm
●エンジン:W12 DOHCツインターボ
●総排気量:5945cc
●最高出力:467kW(635ps)/5000-6000rpm
●最大トルク:900Nm/1350-4500rpm
●トランスミッション:8速DCT
●車両価格(税込):3511万2000円