小さくないが意外と取り回しは悪くない
これまでありそうでなかったアウディ初のSUV。いよいよ日本に上陸となった「Q5」というモデルを、まずはそう紹介すれば良いだろうか。
いやいやアウディにはQ7があるじゃないか、という声をあげる人も現れるかも知れない。が、これも日本で指し示すところのSUVとしては、少々異色の存在であったと言わざるを得ない。まずは何と言ってもその巨大なサイズが日本の市場とマッチするとは到底思えないからだ。
それだけにQ7の弟分たるQ5に関してはなおのこと、その期待が高まるというもの。率直なところ、タイミング的には「遅ればせながら」という感は否めないものの、基幹モデルであるA4のフルモデルチェンジ以上にQ5の存在が気になるというアウディファンもきっと少なくはないだろう。
そんなQ5のボディサイズがQ7よりも遥かに小さいのは確かだが、それでは絶対的に「コンパクト」という表現を使うことができるサイズかというと、とくに全幅の点でいささか抵抗感が拭えないのも事実だ。
実際、初対面となった箱根の試乗会会場ではそれなりに「こじんまり」と見えたQ5のボディも、通い慣れた山道へと連れ出し、あるいはいつものパーキングスペースへと収めてみると、決して「小さい」と感心できるサイズの持ち主ではないことを実感させられた。
もしも最初にQ7をリリースしたことが、こうして後にデビューのQ5のコンパクトネスを強調するための「時間差攻撃」だとしたら、それはなかなか巧みな商品戦略のひとつだ。
それでも、比較的ウインドウの面積が小さく感じられるエクステリアデザインの持ち主であるQ5が、いざ乗り込めば想像よりも全方向に向けての視界の広がり感に優れていたのは幸いだ。ボディ前端位置は比較的イメージしやすいし、後退時の視界の確保は標準装備となるリアビューモニターがサポートしてくれる。タイトなスペース内でのパーキング時には、日本独自の視界基準を満たすためのサイドビューモニターの存在をありがたく感じる人も少なくないだろう。
ちなみに、「工場出荷時に装着済み」というそのモニターのスイッチが、まるで開発当初から考えられていたようにフロアコンソール上にビルトインされているのは、さすがは「アウディ・クオリティ」。
逆に視界面で気になったのは、ドアミラーの位置と大きさが日常シーンで不可欠となる斜め前方の視界確保に看過できない影響をもたらしている点だ。例えば自身のドライビングポジションでは、ドアミラーから先の向こう側に見通すことができないスペースがあり、交差点の規模や形状によっては、とくに右折時に歩行者などを確認しにくいシーンが少なからずあった。
実はこのモデルに限らず、大判のドアミラーを装着したSUVには、こうした現象が見られるクルマは少なくない。残念ながらQ5も、そうしたモデルの中に入ってしまっているということだ。
一方そんなQ5には、ベースとなったA5/A4シリーズに対して大きな「改善」が図られた部分もある。
それはドライビングポジションで、基本的にA5/A4譲りの骨格を用いながらも、ヒール段差(フロアからヒップポイントまでの高低差)が大きい、よりアップライトな姿勢で着座させることもあり、A5/A4では気になるトランスミッションの膨らみによる左足置き場のタイトさを、ほとんど意識させられることがなかったのだ。
厳密に言えば、Q5の場合、今度はフットレストの位置が少々深過ぎる印象があるのが惜しいが、これがあと10mmほど手前にレイアウトし直されれば、ドライビングポジションはほぼパーフェクトと思われる。
それでも、A5やA4では長時間乗れば乗るほど気になってしまう「左足の側面からの押され感」を覚えることがないのは、とても嬉しいポイントだ。
ドライバーズシートまわりの操作系や視覚系はA4のそれをほぼ踏襲。最新アウディ車がこぞって用いるマルチメディアコントローラー「MMI」ももちろん採用され、タッチ式操作から解放されたナビゲーションディスプレイがダッシュセンターの最上部にレイアウトされるが、それゆえに「一等地」を明け渡した空調レジスターは比較的低い位置から冷風を上方に向けて吹き出すカタチになる。そんな空気の流れがどうしてもステアリングを握る左手を直撃しがちとなる点を気にする人も、中にはいるかも知れない。
リアシートは、フロントシート同様アップライトな着座姿勢で前席下への足入れ性がとても優れているため、足元空間がA4よりも遥かにゆったりと感じられる。そんなリアシートにスライド機構が備わるのもQ5ならではだが、100mmという調整幅を持つその機能を最前端ポジションとしても、大人4人が実用的に乗り込める室内空間が確保されるのは、このモデルのパッケージングがなかなか巧みに練られていることの証と言えるだろう。
やはりアウディ流儀で、まるでキャビンスペースを延長したごとく上質な「内装」が施されたラゲッジスペースも、十二分な「使い勝手」がある。リアシート使用状態で540L、シートアレンジ時には最大1560Lは立派な値。いわゆるダブルフォールディング方式は採用していないが、これだけの容量が確保できるならば、むしろ現状のシートバックのみが前倒れする簡便な操作方式の方がありがたい。
ちなみに、今回の2台のテスト車両にはともにオプション設定のオートマチックゲートが採用されていた。こうした装備も、「プレミアムSUVであれば当たり前」と考えられる時代になりつつあるということだろうか。